トイレのスリッパの怪

くだらない話しを一つ。

ウチの子どもは女の子二人である。上の娘は素直でやんちゃをしないタイプ。下の娘はその真反対であった。

今の家の建て直しをする前はもう本当に古い家で私達は二階に住まっていた。

幾つもの小さな部屋を貸していたアパートの部分を住めるように手を入れて下の娘が生まれた時から住み始めたのである。下の娘が年長組か小学一年の頃の事である。舅が他界して10年くらい過ぎた頃で少し不思議な事が我が家に起きていた。母と妹の住まう一階の台所のテーブルの縁を黒い影が横切ったり、二階の廊下が誰も歩いていないのに足音と大きくきしむ音が聞こえたり、昼寝している時に金縛りに私がなったり。

ある日の朝掃除をしていてトイレを覗いたらスリッパが無い。何処を探しても無いのである。家族に聞いてみても誰も知らないと云う。私は怖くなってしゃかりきになって探した結果。トイレの正面の上にある窓枠の隅に右と左、片方づつ斜めにぴたっと嵌め込んで有るのを発見した。そんなことするのは子どもに違いない。二人に問い正した。絶対に知らないと二人とも頑張る。もちろん旦那さんも知らない。私の中では今の今まで我が家に起きた不思議として心に残っていたのだ。

今年、年が明けて家族の新年の顔合わせの席上でこんな不思議な事が昔あったよね。あの頃何だか怖い事起きていたよね。とその話になって、トイレのスリッ

パ嵌め込み事件の事も話題に上げてみた。40歳を越えた下の娘が下を向いて肩を震わせて笑を堪えている。それを見て「お前がしたのか?」と聞くと笑いながら白状をしたのである。何十年もの間知らなかっのは私だけで有ったらしい。

幽霊の正体見たり枯れ尾花〜(笑)

トイレスリッパの怪、始末記🍎

 

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作文 血縁無縁 ④

達夫は美穂を風呂から上げて美穂子に渡すとホッとして湯船に飛び込んだ。忙しい仕事の連日地獄の時間だ。シャンプーを済ませジャワで流している時だった。風呂場のドアーを叩く音が響いた。「たっちゃん、署から電話!」ドアーが少し空いて達夫の携帯が美穂子から手渡された。左手で頭を拭きながら受け取ると「東堂!」と電話に出た自分の声が木霊する。「済まんが武蔵境の駅前で殺しだ。出張ってくれ。車を向かわせた。」小高の声だった。「承知しました。」お風呂もゆっくりと入って入られない。上がると美穂子が着替えを入れた手提げ袋を用意してた。「殺しですって?いつ帰れるか分からないわね。」と言う。

「仕方ないさ、これが俺の仕事だ。」美穂子の用意したスーツを着ると風呂から上がってご機嫌の美穂を抱っこして「いい子で寝てるんだよ。パパ行って来るからね。」高い高いをしようとした。「あら、ミルク飲んだばかり、やめて!」と美穂子が叫ぶ。今夜はゆっくりと美穂と遊べると思っていた達夫は不満そうな顔して美穂をベビーベッドに移した。「俺、外で車待つわ。」とマンションを飛び出して行った。夜の8時を少し過ぎている。風が冷たい。

    坂田が運転する警察車両が達夫の前で停まった。

どんな殺しだと聞くと「武蔵境の北口を出たところにバス停があるでしょ。」「田無駅経由ひばりヶ丘団地行の乗り場で40代の男性が後ろから刃物で左胸の辺りを刺された模様です。まだ詳しい事は鑑識が出て調べて居る段階です。」と説明した。坂田は今夜は泊まり当番であった。「そうか、迎え済まなかったね。」と言うと「班長こそ定時でやっと帰れたのに。」とポツリと言った。

現場に着くと駅前と在って人だかりが凄くその一角は警察車両や一般の車の乗り入れやタクシーので入りなど規制され騒然としていた。

その規制線のテープを監視している制服警官に捜査員証を提示して坂田と入って行った。

「課長、遅くなりました。」

バス乗り場の上に横たわる遺体にはブルーシートがかけられている。

その男はサラリーマン風のいかにも真面目そうな40代から50歳位の男だ。その身元が持っていた財布の身分証から判明していた。

大崎太郎  株式会社、SSIT.経理課長

五反田が本社である。

更に運転免許証から年齢や住所が割れていた。ひばりヶ丘団地に住まっている。既に家族への連絡は済んででいた。その遺体の状況を見た達夫は「この殺られ様は怨恨でしょうかね。執拗に刺されてますね。」

「この雑踏の中でやられてるからね、目撃者が当然居てね、逃げた男の面が割れてるよ。」周りに飛び散る血痕やげそ痕などの採取が鑑識班でされている。「今監視カメラで逃走経路を追っている。近辺の聞き込みに合流してくれ。」と小高の命令を受けて2人はスキップ通りで聞き込み中の仲間と合流した。初動捜査は極めて大切でそれ如何で事件が早期解決するのか迷宮入りするのか決まると言っても過言では無い。程なく武蔵野北署に警視庁捜査一課が出張り捜査本部が置かれるだろう。

目撃者が見たのはバス待ちをしていた被害者大崎に後ろから男が掴み大声で「殺してやる!」と叫びながら背後から背中を何回も刺した。大柄で少し白髪混じりの厳つ顔をし、左の目の下にホクロがあったとそのバス停の向かいのパン屋へ買い物に来ていた主婦からの証言が得られた。その後その主婦の情報で男はそのまま線路伝いに三鷹駅方面へ逃げて行った。との事だた。駅前の商店街へ入れば人が多くそこを避けたので有ろう。その道のりにある監視カメラを徹底的に探した。返り血を相当浴びて至ると思われ目立たない所へ隠れる事も考えられた。

  三鷹方面に少し行くと左の角に手作りのアクセサリーの店がある。その角はその店が休みで一角の灯りが弱い。そこを大柄の男が身体を丸めるようにして曲がる所が店の向かい側に有る監視カメラで捉えることが出来た。顔認識でどうやら鮮明な顔が分かる位の画像になった。一報を聞いて、大崎の確認に妻の聡子と(   SSIT )の総務課長、野澤が署に来ていた。遺体安置所には熊谷捜査員が付き添っている。先に野澤が出てきた。達夫は「大崎さんに間違いないですか?」と問うと「はい、ウチの経理課長の大崎に間違いないです。何故こんな事に.........。」と絶句した。

「済ません。今回の容疑者らしい人が監視カメラに写ってまして、念の為に確認をして頂きたいのですが。」と応接室に促した。既にテーブルの上には写真のコピーが届いていた。余りの事にショックを受けて顔色が悪い。「大丈夫ですか?お茶でも飲んで下さい。」と進めると、この男何ですが。と写真を野澤の側へ移した。其れをマジマジと見つめて居たが暫く時を置いて「あの~、刑事さん。この男が大崎君を殺した男に間違いないんでしょうか?」と聞いてきた。変な事を言うなと達夫は感じたが「目撃者の証言から割り出すとほぼこの男では無いかと見てるのですが。」「見覚えが有りますか?」と重ねて聞いてみた。野澤は「前かがみになって見ずらいけどこの男は五十嵐と言う昔会社を解雇された男に似てます。少し歳をとって居るけど左目の下のホクロ、間違いないと思いますが。」と野沢が達夫の驚く事を言った。「うちの課長と生安の課長と洋子ちゃんを呼んで来てくれるか?」と傍にいた折本に頼み、折本が急いで応接室を出て行くのと同時に「その辺りの詳しい話をお話して下さいますか。」と言うと、もう定年も近いのであろう歳頃の人の良さそうな野澤は話ずらそうにポツポツと話し出した。「今から二十四、五年くらい前になります。殺された大崎君が我社に入社した年でした。その頃経理部に二年前に事故で亡くなった滝沢と言う係長が居たんですが、その当時経理課長をしてたのが五十嵐何です。」若い大崎と滝沢は五十嵐の二重帳簿を見つけて会社の利益から金を横領してたとの不正の事実を掴み内部告発をした。その直後妙子と結婚した公男は山形の酒田市に有る営業部に転勤して行った。五十嵐は当然解雇され訴訟されて裁判を経て実刑が言い渡され府中北刑務所に送られた。五十嵐は随分と公男と大崎を恨んでいた。と説明されたのである。

その後直ぐに公男は退社して山形から逃れる様に東京に帰ったのある。その話をしてる間に洋子達三人も加わって聞いていた。

達夫は洋子に「滝沢、君の弟さん左目の下にホクロが有る男に何回か付けられたと言ってたね。其れに亡くなったお父さん以前SSIT社の社員だったと。」洋子はうなづいた。と、同時に其れを聞いていた野澤は「あ、あの滝沢さんの娘さんですか?」と驚いたように聞いた。

洋子は動揺していた。間違いなく今までの不可解な出来事が一本の線で繋がって来たと感じていた。「はい、滝沢公男の長女洋子です。」

とそう答えると野澤が嬉しそうにうなづいた。

「課長、滝沢の弟さんに五十嵐の顔写真確認して貰って下さい。」

「そうしよう。」と小高が席をたって行った。

「滝沢、動き始めたな。」と達夫は感慨深そうに洋子にそう言った。

「はい。」洋子は応えた。

「こ、こんなことで滝沢さんのお子さんに会えるとは·····。」懐かしい者を見るような眼をして洋子を野澤が見詰めてた。「野澤さん、今日はご協力有難う御座いました。」と達夫が頭を下げると洋子も深々と頭を下げた。

「いえ、今度の事が我社の過去の汚点から出た事であるなら本当にお恥ずかしい事です。卑怯な五十嵐を必ず捕まえて下さい。」と言い残し応接室を後にして行った。

   程なく大学の授業から急遽呼びだされ出頭した晃生によって付け狙っていた男が五十嵐である事が確認された。

晃生は五十嵐が父では無く、父の元同僚であった事を知って公男の死をも疑念を持たざるを得なくなっていた。歩道橋からの転落死が事故で無く五十嵐の手による殺人で有ったなら、今回殺害された大崎さんとのこの三人に何が有ったと言うのだろう。何故父は死ななければならなかったのだ。そう突きつめて考えてみるとその胸は不信でいっぱいになっていくのだった。

  達夫達捜査員はその話を持って捜査本部会議に臨んだ。🍎

作文 無縁血縁③

そんな事を思い出してしまったが

気を取り直して「着替えてから手伝うわね。」と自分の部屋に上がって行った。

父さんが亡くなってから何かが変だ。事故かそれとも誰かに殺害されたのかの疑問がある事もあるのだが。

洋子は自分がその亡くなった父や妙子の養子である事は大学受験の時の取り寄せた戸籍謄本で知っていた。高校入学の時は公男が上手く隠したものらしい。

だがそんな事をおクビにも出さず晃生と分け隔てなく何不自由無く育てて貰った。どうして養子になったのか、洋子は知らない。そして自分の名前がひろこでは無く本当はようこである事も全く知らない事であった。物心付いた頃からひろこであったのだ。山形から東京に公男は仕事を辞めてまでして移り住んでいる。

もしかしたらそれらは私が養子である事が関係しているのでは無いだろうか。ふとそんな疑念を少し前から抱いていた。

ジャージに着替えて洋子は階段を降りて行った。

口には出さないが公男の死で落ち込まないはずも無いのに妙子が気丈に振舞っている事等は二十六歳とも成れば感じ取れる。だから敢えて明るく妙子と接していた。食器を並べながら言った。「母さん。夏のボーナス出たらね北の方へ旅行しない?」

妙子はビクッとして「北って?」と言った。

「暑い季節になるから、そうね長野の安曇野辺りは駄目?」妙子は洋子の顔を見て「其れは良いかもね。でも.......。贅沢よ。」と言う。妙子の顔は明るくなった。

「贅沢では無いわ。晃生も大学最後の年だし。記念に家族でね。父さんの写真も持ってさ、ね、どう?」

「洋子や晃生に生活費助けて貰ってるだけで母さん充分なの。これ以上は望まないわ。」と応えた。

「つまらない事をおっしゃいますね。母さんは相変わらず。」とおどけてみせた。妙子は思わず笑顔を浮かべて「その通りですわよ。」と、言ってのけた。その時リビングのドアーがいきなり開くとそこに晃生が変な顔をして立っていた。「あら、お帰り、なぁにただいまも言わないで。」晃生は「母さん、ほらこの間知らない男から睨まれたって話したでしょ?」妙子は晃生の顔を見て「それがどうしたの。」と聞き返した。

「その男だ、絶対。」

「その人が何だと言うの?」今度は洋子が聞いた。

「今家の前に居て、僕をじっと睨み付けるんだ。」

妙子は狼狽えた。

「それでその男は?」と声が上擦る。「睨み返してやったら駅の方へ行っちゃったよ。変な奴だ。」

「どんな人よ?」気になって聞いてみた。

「がっしりとした大柄の50歳位の男で、あ、左目の下に小さな黒いホクロが有ったな。」妙子はそれを聞いて玄関に飛んで行った。「母さんもう居ないよ。俺、明日午前中暇だからほら、あの駅前の交番に行ってみるわ。」

リビングに戻った妙子は急に静かになって其れは食事中続いたのである。

晃生は次の日交番に相談しに行った。「しかし、なんだよね。君が女の子なら付け狙うのも分かるけど。ま、巡回増やしてみるね。」とその巡査は言ったらしい。その程度の事だと判断したのだろう。

その次の日は日曜日だった。

妙子は珍しく外出をして半日位帰らなかった。普段は買い物くらいしか出ないので洋子は少し気になっていた。

その夜食事が終わりお茶を飲んでいる時だった。

「二人に母さんから話が有るの。」

洋子と晃生は同時に何?と聞いていた。

「あのね。お父さんの保険金ね。二人に取っておこうと思って居たのだけど。」

「晃生もいずれお嫁さん貰うでしょ。」

晃生は照れた。

「馬鹿ね、今じゃないわよ。」と洋子が茶化すと

「真剣に聞いて。」と妙子が言う。

二人は神妙になった。

「この団地にいつまでも居るのは何だと思って前からマンションを探してたの。」思わぬ妙子の言葉だ。

「ほら、武蔵野市なら、洋子も働き場所に近くなるし、晃生も勤め先見つけるのもあの街ならと思って、今日決めて来たのよ。」「えっ」二人は声を揃えた。「何でよ。ここで充分じゃない。」洋子が言うと。

「実はね母さん吉祥寺が好きなのよ。親孝行だと思って越すの許して。」と言う。洋子は感が良い。

これはこの間から起きてる不穏な事と関係してるのでは無いか。もしかして私が養子である事も。と思った。其れに付けても思い詰めた様子の妙子にこれ以上の反対は二人とも出来なかった。その日から間もなくして武蔵野市の公会堂近くのマンションに移り住んだのである。

    洋子は署に歩いても通える位の所で通勤も楽になった。諸手続きも諸々総務課に提出してまたこれで穏やかな毎日が始まると信じたかった。

晃生はアルバイト先も大学も近くなってそれなりにやはりマンション購入は嬉しい事で、生活をエンジョイしているようだ。其れにあれ以来あの男は現れてないみたいである。

   その引越しからまだ幾日も経ってない日だった。ついこの間まで住んでいた曙団地の一室が日曜日の夜中何者かに火炎瓶の様な物を投げ入れられて焼けた。幸いその部屋だけで済んだのが奇跡の様だったと朝のニュースで顔見知りの団地に住む人がインタビューされていた。,,国立市曙三丁目二の六   その団地の三号棟三○三号室から昨夜一時半頃発火しその部屋は全焼しました。空き家となっており怪我人は有りませんでしたが遅く帰宅した住人の怪しい人影を見たとの情報も有り、消防と警察はその男が火炎瓶等を投げ込んで放火したとみて捜査中です。,,

朝七時のニュースだった。

妙子は震えが止まらない。洋子も晃生も其れに釘付けとなって居る。

紛れもなく其れは洋子達が永年住んだ部屋に間違いなかった。何者かに火炎瓶を投げ入れられた、その言葉が妙子の頭の中を駆け巡っている。自分達が狙われての放火に違いないも思われて怖かったからだ。

もう、ダメだ洋子の課長に相談しに行こう、そう決めた瞬間である。

それにしてもあの男は執念深い。恐ろしい男だ。しかしあの時哲郎は本当に捕まったのだろうか。日本の警察は甘くないもの。絶対に捕まったのだろう。新聞にも報道もされてたし、もしかして出所してから探し当てたのだろうか。

うちの人もあの人が突き落としたのでは無いのか。

妙子はそんな事を思っていてほんとに震えがが止まらなかった。洋子や晃生に話さなければ、あの子達に危害が有るとすれば注意をしなければならない。

そうだ2人に話そう。そう漸く決心が着いた。「お母さんどうしたの?そんな怖い顔して。」心配して洋子が声をかけた。「二人とも今夜は早く帰れる?」「話があるの。」

晃生はこの放火のせいだと直感した。其れに二度も変な奴に睨まれたのを考えて、

「アルバイト休んで早くに帰るね。」と妙子に言った。

「私は何も起こらなければ定時に上がれると思うわ。」

妙子は二人の顔を見て「お願いね。」と付け足した。

   署まで歩いても直ぐなのだが洋子は自転車を利用する事にした。歩いて通うと隙が出来る。自転車なら回避出来る事も多いからだ。だから直ぐに署に着いた。自転車を止めながらふと思った。母さんは私の養子の事を話すのかも知れない。そこに一体何があるのだろう。晃生は確かに変な男と会ってるけど、私には接触何もして来ないしな。と頭の中でそんな思いがかけめぐる。昨日の放火の事も一応課長の耳に入れて置く事にしていた。明らかに我が家に何かが起きていると確信したからである。生活安全課に入ると課長が洋子の所に飛んで来た。そして応接室に招くと。「国立の放火って前滝沢さんの住んでた部屋だろ?」と開口一番に聞いてきた。洋子は「そうなんです。」と応えた。

「これは何らかの事で恨まれたり妬まれたりしてる者が居ると考えた方が良いね。」と言う。

「そう思います。2年前父が亡くなった事か、私の事が有るのかも知れないんです。今日、私の方から課長にお話しするつもりで居ました。」課長は顔を曇らせて「そうか、気をつけた方が良いね。」「有難う御座います。今夜母から話があるそうなんです。多分私の事だと思います。」課長は不思議に思ったらしい。「滝沢さんの事?」洋子は意を決して自分は養子である事を話したのである。「知っては居たよ。」「本人がその事を知らないのであればと思い聞かないでいたんだが。」課長の思いやりに洋子は改めて頭が下がる思いがした。

「暫くの間、身辺を注意しておいた方が良いね。私もそれと無く気をつけて見てるから。」と言う。

「はい、ご心配おかけします。」洋子は課長の配慮が嬉しかった。少し心が軽くなったような気がした。

生活安全課の一日の仕事を卒無く粉して洋子は母の待つ我が家へ帰宅したのである。晃生は既にお風呂に入っていた。台所では妙子がコロッケを揚げている。テーブルにはもう切り干し大根の煮付けやワカメの酢の物等が出ており、いつもながらの母の手料理に急にお腹が空いてきた。

「も少し待ってね。晃生もあがってくるでしょうから。」と妙子が声を掛けて来た。「うん、着替えて来るわ。」洋子が言うと「もう階段が無いから楽でしょ?」と言う。国立の団地にはエレベーターが設置されて無く三階とは言え疲れて帰宅した時など階段はそれなりにきつかったのである

洋子は「ほんとよ。」と笑いながら応えた。

でも胸の内では妙子が今夜話す内容が気になってどうしようも無い。自分の幼い時の事は全く覚えては居なく、物心か着いた時には既に滝沢の両親に大事にされていたのである。その頃にはホントの両親では無いなんて疑っても無い事で、今夜一体どんな話を聞くのか不安であった。

    妙子のコロッケは絶品である。

公男も良く頼んで居たのを思い出す。胸の奥でその父の亡くなった現実が悲しくなる。お父さんコロッケ好きだったとは誰も口には出さないけど妙子も晃生も思い出して居るのだろう。この家族に公男の居ない生活が普通になるのにはもっと時が必要なのである。

親子三人の食事を終え洋子が珈琲を入れた。

「今朝言った話なのだけど。」妙子は切り出した。「もしかしたら洋子は知って居るのかも知れないね。」

「私が養子だと言う事?」妙子は洋子の顔をまじまじの見て、「やっぱり。」と言った。

聞いていた晃生が「姉さんが養子?」と驚いた様に言うと

「そうなの。でも母さんは勿論父さんだって洋子の事を養子だなんて一度も思った事なんて無いの。」

「私だってそうよ。父さんや母さんに甘えて生きてきたわ。」妙子は嬉しそうに微笑むと「洋子、あなたは本当はようこって名前なの。」洋子は驚いた。何故なのか?「な、何で。?」と自然に言葉が出ていた。

「実はまだ山形にいた頃ね。隣に木村さんと言うお宅が在って。」「洋子、あなたはその木村さんの子供だったの。」洋子は黙って聞いていた。「何時もあなたのお父さん、哲郎さんは洋子を連れたお母さんと再婚したの。だけれど、連れ子のあなたを虐待してて、」虐待!洋子は胸が張り裂けると思うくらいその言葉に驚いた。「ある朝見兼ねて家に連れてきてね。警察に相談したの。あなたは児童相談所に一時預かって貰ってね。その日、あなたのお母さん、お父さんと揉めてね。.......」言葉に詰まってしまった。流石に辛い事を言わなければならない。「それでどうしたの?」洋子は堪らなくなって聞いた。「うん、あなたのお父さん織江さん、あなたのお母さんの事よ。殺して逃げたの。その時その現場に生まれたばかりの男の子が居てね。洋子の弟何だけど、それが晃生なの。」それには晃生も驚いた。「な、なんだよ。いきなりそんな話!」と狼狽えた様子だった。無理も無い。「大人しく聞いて。」と妙子は狼狽する晃生を制すると続けた。

「警察が行方を探したのだけど暫くは逃げて哲郎さんは捕まらなかったの。」「私は洋子ちゃんが可哀想で、お父さんと相談して児童相談所から引き取って来たの。」洋子は息を呑んだ。晃生が実の弟?実の母親を養父に殺された?にわかに妙子の話すことが信じられない。

「それから哲郎さんの仕返しが怖くて、父さん会社で何か問題もあったらしくてね仕事を退職して東京へ出て来たのよ。」「暫くして哲郎さん逃亡先の大阪で捕まったの。」と言いながら古い新聞を出して来た。その哲郎の記事が掲載されていた。そこに父親が捜査員に確保され新潟の寺泊署に連行される報道写真があった。上着を頭から被り俯いていてその顔はハッキリとは分からない。それでもガタイの良い事だけはわかる。晃生も尚更マジマジと見つめた。気持ちは混乱していたが晃生にとっては実父であるということなのだ。

「それから一年半もたってそこでやっと二人とも正式な養子縁組が認められうちの子になったの。」「刑は懲役6年、でも早くに保釈される事もあってね。今では絶対に出所してるだろうし、逮捕されたのにも疑心暗鬼に思っていたしね。いつかあなた達を取り返しに来るのではと怯えて暮らしていたのよ。」

そんな事は日頃から洋子は感じた事は1度もなくて聞いてもにわかに信じられない。「引き取った頃、あなたには虐待の爪痕がいっぱいあって。食事もろくにね。」「お母さん。私今ショックで。」と洋子が言うと「そうだよね。両親の事、晃生の事。それにこんな酷いこと聞いたのだもの当たり前よね。」と妙子は肩を落とした。「母さん、私は二人とも養子だなんてちっとも知らずに大学生なる迄。それからもお母さんやお父さんの子供でいた事を感謝してたの。私がショックを受けたのは、その養父から虐待を受けていた事なの。それ以外何も無い。」事実の事だった。養子に出された経緯を知らずにいた洋子にとって虐待した養父もそれを容認していた弱い母の事もそして殺された事もそんな事はどうでも良かった。ただ虐待されていた事を初めて知って今の両親が助けてくれた事実にショックを受けていたのである。

「もしかして、父さんの事故死、関係有るのかな、俺を付け狙った男はもしかして、あ、あの放火も。」

と晃生が言った。「それは分からないわ。国立に越したのも行政が隠してくれて探しようがないと思って居たのだけど。執念深くて粗暴な人だからこの所の事は私もそうじゃないかと恐ろしくなってね。」洋子は情けなかった。自分の両親がそんな人達である事が恨めしい。だが今まで二人は愛情をいっぱい受けて育って来た。妙子が母親である事に決して変わりない。

そしてもしかしたらその養父が大切なお父さんを殺害したのかも知れなく。其れには言い様もない思いがしていた。しかし今何とかしなければならない。その男が執拗に嫌がらせをして居るとするならば大切な家族にこれ以上の危害は避けなければならない。どうしようもない現実に初めて恐ろしさを感じたのである。洋子は公男の仏壇の前に座りじっと公男の写真を見つめていた。・もしかしてお父さん、私のお父さんに殺害されたのかも知れなくてごめんなさい・そう心で話していると済まなくて涙が頬を伝わっている。ふと我にかえると晃生が隣に並んですわっていた。「大丈夫、姉さん、俺、今混乱してるけど俺が守るよ。姉さんの事も母さんの事もね。」それを聞いて妙子も涙を流した。「母さん、私母さんの事大好きよ。私はずっとお母さんのこども。これからもね。ありがとう、今までの事。」「本当に有難うしかないわ。助けて貰って、育てて貰って。」洋子の涙は後から後から流れてくる。

初めて洋子に食事させた時の妙子を見つめて泣いたあの時の洋子の涙を今また見ている様な妙子はそんな思いがしていたのである。

「取り敢えず、明日課長とまた相談するわね。そして正式に要望書提出しておくわ。」と涙を拭いながら洋子は取り分け明るく言った。🍎

無駄や、要らへん〜

以前からリコール車の事でスバルからお知らせが届いてたの。来年の4月には車検が切れる。ちゃんとしとかないと車検が通らない。
かなりの時間を経てちゃんとしておいてと何回か父ちゃんにお願いしてたのね。スバルに車検証を用意して電話するだけで後はスバルの方から指示があるからとても簡単な事。私がして済むならとっくに終わっている。
私たち夫婦は高齢者の入口にいる。毎日の買い物に車は欠かせなくて、私としては内心焦っていたの。もう半年も前からお知らせは来てたしね。
父ちゃん休日だった。
車のキーを持って外へ出たのね。
「あれ、どこかへ行くのかな。」と思ってたら速攻帰って来た。車検証テーブルの上に置いた。あー、やっとこさ腰を挙げたか。と思ったわよ。電話の子機を置いて、お知らせを1枚1枚広げて置いて。肩イカらしてため息つくのね。・はぁ~、フゥ~。・やおら子機を手にしてフリーダイヤルを押し始めた。・出たら嫌だな・ と言う。そりゃ出るわな。
「あ、あの車のオイルの事で……。」
はへ、?それで分かるか?お知らせのタイトルを何故読まへんねんな。でもコールセンターの方は流石。父ちゃんを何とかコントロールしてくれて我が家の車は工場に行く必要が無いと分かった。
後で処理済みのステッカーを送ってくれるそうだ。電話を切った父ちゃん。
バンザイー済んだーあー良かったー。俺もう嫌で嫌でーと言いながら車検証を持って玄関を出て行った。
買い物に出る時車のドアー開け放して何かを探してる。何だろうと見てるとダッシュボードを引っ掻き回している。無い!無い!と叫んでる。
おい、車検証どこへやった!
へ、うちか~知らんで。どこへもやらへん。
家の中に戻る。探しても何処にも無い。ある筈無い。持って外へ出たもの。焦りまくっている父ちゃん。自分のした事も覚えていなんか?
私も家の中探してみたけど在る筈無いの分かっていたわ。
車に半分身体突っ込んでまた探してる。その様子を私は呆れて( ゚ ρ ゚ )ボーっと見ていた。暫く時間が経ってダッシュボードをカタンと閉め、運転席に座り直した。どうも有ったらしい。助手席に座ると説明が始まった。
それによるとダッシュボードの奥は隙間が有って、そこに車検証は挟まっていたらしい。そこに入れたんか、父ちゃん。器用だなある意味。ダッシュボードの下の奥から手を伸ばして見たら車検証のカバーに手が触れた。と。しまい方が悪いねん!私のせいにしたのどないすんねんな、そう思ってると。
「何でそんな設計なんだ。隙間作るなよ。」私は驚いた。そうしておかなければダッシュボードの役をしないと思った……。
それ程一本電話入れるのに半年も緊張してたんか!そう思ってる所に「俺はほんとにこんな事嫌なんだ。」とさ。外で30分も立って待っていた私の足の痛さ、どないしてくれるん?当然父ちゃんの欲しいもの買うのは尽く却下したのよね。無駄や、要らへん、の一言で。

それじゃまたね。

 

※我が家で起きた事ですがわざと関西弁で書いたものです。本当は関東の人間です。    NOKO

 

雪かな雨かな

寒い日となり、雨から雪の予報も出たせいかスーパーは混んでました。安いので有名なスーパーだから余計なのだが昼間のこの時間で商品の棚がカラになっているのが多く品出しの店員さんがあちらこちらで補充してました。我が家はまとめ買いの日だったのですが普段買いに来ない人も来ていたみたい。

レジの傍にマスクが並んでいたけどそう慌てて買う人はいませんでした。が、友達からLINEで郵便局に行ったらマスクを箱買いした中国の人が本国に送るので混んでいたと言っていました。大変な事態なんだなと思いました。

日本茶でうがいしたり飲んだり、マメな手洗いで予防したりが有効だとの事ですね。

きちんと食事を取りしっかり寝て身体に抵抗力を付けウイルスに付け込まれないように気をつけよう、ですね。🍎

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飛翔

サイズ  F 6  cotton細目水彩用紙

アクリル

額無し¥7500  額装済¥11500 (送料込み)

買い物

少し離れたスーパへ行けばバスで行って バスで帰ってこれる。病後足腰に後遺症が有る私は買い物に出かける時毎自分との戦い。

近くのスーパーやコンビニに行くには自転車を押しながら徒歩となる。行き帰りで3000歩くらいの歩数となる。だが途中で痛くなり何回も休みながらの道程となる。だがバスで行けば歩く距離は短くなるので物凄く葛藤するのである。

後遺症があっても適度に動かさなければ状況は悪くなるばかり、いつも2時間くらい考えた末の買い物となる。今日は歩いて買い物に。、やった〜!、(/ ・ω・)/

しかしやはり帰りついた時は足腰は辛かった。でも気持ちは 晴々としている。

買い物も自分との闘いなのだ。🍎

 

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瑠璃雛菊F2  アクリル 絵    

                   sold out

 

 

 

アレルギー

朝起き、ストーブに点火して冷えた部屋が暖かくなって来ると始まる止まらないくしゃみ、鼻水。

昔父が毎日高い鼻の先からツーと落ちる鼻水で私は急いで鼻紙を持って行くのが日課だった。今その時の父の年齢をとうに過ぎ父と同じになっているのに小さな驚きを感じている。

思い返してみると私は小学校を卒業するくらいまでその父と容姿が似ていた。細身の身体。面長な顔立ち。その後段々と母に似て来たが、父の思考と行動はそのまま受け継いでいて母とは真反対の性格となった。幼い頃母が「余りに細くて小さいから赤ん坊のお前を占い師に見て貰ったらね、お前は七歳まで生きないと言われたんだよ。」其れを言う母の胸の内は分からない。が、私は幼くてもその言葉にかなりのショックを受けていた。その命の期限、七歳に至っていなかったからだ。その時「良かったねノコ、七歳まではもうすぐだ。」と父が声をかけて来た。どんなにその一言で安堵したか知れない。母は自分の思った事を何でも口に出す。そして自分の考えている事が一番。他人の思惑は気にもかけず男の人にも負けることは無かった強い性格である。私は父の物作りが好きな所と、性格を。母からは体格とその生きる強さを受け継いだ。

今止まらぬクシャミ鼻水の朝を迎える度血の繋がりが普遍である事を実感している。🍎

 

 

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今朝のイラスト

紅百合  サイズF 8  アクリル

cotton 細目水彩用紙使用

額装無し¥6500  額装有  ¥10500

送料無料で個人販売が出来ます。