何でだよ

私は大病をしたので薬の数半端無いん。だから一日分を分けて間違いの無いように服用してる。

旦那は痛風の薬と痛み止めだけ

やはり取り分けして服用し、尚且つなんの薬を服用したのかメモに書いている。その時間迄書き入れて、そして薬のパックを暫くの間、目の前に置いておく。飲んだかどうかを確かめる為に。それだけしても暫くすると、あれ、俺薬飲んだかな?になる。なんでや?と思うでしょ。

七不思議なんやね。せっかくのメモもしまったところ忘れてんねんな。

私が把握していて、飲んだよと言っていたの。でも近ごろは、知らへん、自分で覚えとき〜と。意地悪言うてんな。

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だって、ほんと、何でだよ....😳💦

今年新一年生になる孫息子の所では毎年節分の鬼が来る。半端ない怖い鬼で子供達二人とも震え上がり泣き出す始末。

昨日娘が買い物から帰ると孫息子が震えるように泣いているので、どうしたの、と聞いた。今夜鬼が来る〜。怖い、なのだそうだ。娘は笑いをこらえるのに懸命。今夜は諸説の事情で鬼は来れないと答えたそうだが、諸説の事情で来れない鬼、その中身、そろそろ感づかれてしまったかもしれない。パパさんは仕事で夕べ非常に遅い帰宅であった。f:id:mino87no55dego341:20200204091122j:imagef:id:mino87no55dego341:20200204091144j:image

黒猫…来年からもうあかんわな

 

夢は風船に乗せて

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空想の世界はとても楽しくてその空想をイラストにする時とてもワクワクします。特に童画の時には楽しいです。

絵を描く、作文を書く、私にはそれしか有りません。其れがすんなりと出来ている時は気持ちも安定している時。スランプの時は気分も落ちている時です。逆に言えば心の乱れている時は私の作品は作りだすことは出来ません。旦那さんと喧嘩なんてしたらもう最悪。😅

この絵のような穏やかな楽しい絵はとても描けませんね。😊

 

作文 雷雲

       雷雲

彼は悔しかった。
何故もう少し踏み込め無かったのか。曜子をむざむざ殺されて、しかもあんなに残忍な姿になって発見された。断末魔の苦しさに眼を見開いていた曜子、その眼が「俺を責めていた。」そう思われて仕方が無い。
自分のせいだ、相談されて居たのに防ぎ得なかった。自分の刑事としての甘さを今更ながら思い知らされて身体が口惜しさに震え、それが止まらないのだ。
達夫は座喚く捜査員室の南に向いている窓辺に立って其の外を眺めている。
その階下を何気なく見ている。桜の樹の縦横無尽に張り巡って揺れるその枝の間から建物に沿って署の車両が停めて有るのがチラチラと見え、その中を今朝の件でいつもより多く出入る車の動きを眺めても其れは空虚なだけだった。視線を戻すとその桜の新緑の枝葉が揺れ、それが眼に飛び込んで来てギラギラと眩しい。咄嗟に俯いて其れを避けた。
浦安坂波高校時代の同じ吹奏部員で一学年下だった 三崎曜子から十一年振りに電話が入り、相談事で逢って欲しいと頼まれて非番の日に会い話しを聞いたのが丁度一ヶ月前の事だった。
その日、昭島駅近くの喫茶店で彼女と待ち合わせた。目の前に居る曜子は高校生の時とは比べものにならない程美しくなって今自分の前にいる。その白いシャツの胸元の全てが見えるのでは無いが、其のふくよかな胸を容易に想像させる位開いてい、それにミニのダークグレーのタイトスカート。形の良い膝小僧から均整の取れた美しい脚がすっと伸びている。スカートと同色ののジャケットは椅子の背もたれに掛けてある。黒いショートカットの髪に大きめで白く耀く金属製のピアス。そこから伸びる色白な首筋。それらの何処を見ても曜子に女を感じてしまう。あの頃達夫は曜子に淡い恋心を抱いていた。そのせいも在るので何を見ても自分が落ち着かないのだと言う事を塔に気づいている。
頭の中に新妻の美穂子の怒っている顔が時折浮かんでは消えていて其れで辛うじて自分を律している状態だ。頭を掻いて誤魔化すしかなかった。ただそんな曜子のどこかに堅気の女では無い様な雰囲気がしてるのを感じていた。シックな色の服で纏めては居るがふと見ると真っ赤な口紅とマニュキュアが其れを思わせているのだ。
ただこの時にはまだ、やはり学生時代とは違って当たり前なんだな、と思って居るに過ぎなかった。
茶店内は日曜日とあって、結構賑わってい、少し声のトーンを上げないと聞こえづらい。
曜子はそんな店内を注意深く見渡すと珈琲カップカタンとテーブルの受け皿に置いた。もう笑顔はすっかり消えてしまっている。ほんとに怖がっているようだ「何があったの?」と促した。するとハンドバッグから一枚の写真を取り出して達夫に見せた。
「この男に最近纏わり付かれていて怖いの。先輩が刑事になったと圭ちゃんから聞いて……。」圭ちゃんとは折本圭子。吹奏楽部で曜子と仲良しの娘だった。差程器量良しでは無いが心根のしっかりした快活な明るい子だった。二人ともトランペット吹いてたなぁ。・ そんな事も覚えている。やっぱり今も仲良しなんだと達夫は単純に思った。しかしどうして圭子は達夫が所轄の刑事となった事を知り得たのだろう。一足先に卒業してから今まで全く二人とは交流が無かったのである。そんな僅かな疑問を考えている時、曜子は再び其の写真に指を置いた。
あれ、随分と派手な指輪をしてるな。と気が付いた。其れ程目立つ中指に似合わない指輪をしている。其れは大きなブルーのアクアマリン。それ自体奥から輝きを放つ美しい貴重石で其れを小粒とは言えない大きさのダイヤモンドを取り巻いていており、とても安い物では無い事は達夫にでさえ分かるリングだ。彼女とは釣り合わないとも思えた。さっきから感じている違和感が更に増してきた。無論暮らし向きが良かったらこんな装飾品を身に付ける事もあるのかな...。其れにもうれっきとした大人の女性なのだ。しかし曜子はこんな派手な出で立ちをする性格だっただろうか。擡げる度重なる疑心を抑えるのに大変だ。だが之こそが達夫が刑事としてこの何年間に身につけた捜査体験から来る感なのかも知れなかった。
其の写真は二階の自分の部屋から曜子自身階下の道路を隠し撮りしたのだろう。朝なのでわりとハッキリ写っている。若い男が曜子の部屋を見上げている様子で写っていた。
「で、どんな様子?」と聞くと「この人駅の近くのサニーマートの店員なのだけど、買い物行く度にジトっとした眼で見られて気持ち悪くてね。朝ほぼ同じ時間帯に毎日こうやって見上げてるの。」
「ふぅん、それで夜は?」曜子は視線を膝の辺りに落として「夜は私の帰り遅いせいもあるのかな?居ないのだけど……。」「昼間もどこかで見られてるような気がするの。」と言う。「今も?」曜子は、ええ、と小声で答えた。そう言われて注意深く周りを見渡し探っても達夫には怪しい者の姿は何処にも見えない。「実害はまだ無いんだね。?」それはまだと言うようにうなづいた。これはちょっと心配な状態だなと達夫は思いもしたのだがいくら刑事でもやたらに実害の無いうちに捜査するのは規則で出来ない事だ。住まいは幸い昭島市内だと言う。自分の署の管轄だ。曜子を諭して昭島東署の市民安全課になるべく早い内に連れて行く事にした。警察に話を通しておく為だ。それと言うのも其の生活安全課に警視庁地域課地域総務係と言う部署が所属している。二人の警察官が配置されている部署で深く市民と触れ合う事が仕事だ。だがそのポストは何処の所轄の警察署にも置かれている訳では無くたまたま昭島東署には置かれて居るのだ。本来どこの警察署にも置かれても良いポストでは有るが其れは予算の関係も有るのだろう。
そこに小山田徳雄と言う名物巡査部長がいて達夫は彼を見知っている。捜査係に配置されている捜査員では無いが彼も刑事なのである。主にイベント等で市民に講和して犯罪に巻き込まれない術を教えたり市内を巡回して市民に接し覗きや下着泥棒、自転車ドロなどを警戒したりする部署である。最も市民と交流して市民事情に精通しているポストだとも言える。人柄も温厚で親しみ易くそして有能な警察官である事を承知していたから、そんな小山田に曜子の事を事前に話をしてみた。その時小山田の顔が曇りを見せた。曜子に関して若しかしたら良からぬ者達との関係があるのかも知れないと言う噂話が有るのだと言う。その時達夫は曜子に益々不安を感じたのだった。
小山田はその風貌からも嫌われない。生活安全課の仕事と大きく関わってい、その意味で先々小山田とも相談が通りやすい。悔しいが今の段階ではその位しか出来無いのが現実であった。あの男を次の非番の朝、其の時間帯にどんな奴だか張ってみるか。と達夫は自分をそう納得させるしか無かったのである。
果たして次の週の非番に曜子のマンションを張って見た。確かに朝七時を回った頃彼は現れたが曜子の部屋を一時見上げてそのまま駅の方向に下喧騒に立ち去って行く。二十一、二歳位だろう。茶髪にしているが彼から特に陰湿な感じを受けない。其の彼を付けて行くと曜子の言っていたコンビニ、サニーマートの裏口から店内に入って行った。昭島駅からほど近い所の交差点の角から2軒目で、ついこの間曜子と会った喫茶店からそう離れては居ない。
達夫は店内に入り、雑誌を選ぶ振りして少し様子を見ていた。店内は駅前と在って朝から結構客が入っていた。品出しをしている。二台あるレジには中年の婦人がレジに対応していて混むと彼もレジに入る。
其れは至って普通の対応で顔見知りの客と時折談笑してたりしている。達夫は彼の名札を確認した。鈴木と書いてある。そこから余り時を待たずに彼の住所と名前が割れた。曜子のマンションから目と鼻の先に住んでい、国分寺学芸大学、二部に通う学生アルバイトの鈴木洋一、二十二歳である。夕方からの学校、道理で夜は現れない筈だ。
この鈴木洋一の事は万が一を考えて一応谷口の耳に入れて置く事にしたのである。
その日から三週間が経ち季節はいつの間にか新緑の枝葉が陽を浴びてキラキラと輝く五月となっていた。
達夫の実家は千葉県の浦安市に在るが昭島東署に捜査員として登用された四年前から西八王子の駅の傍のマンションに単身移り住んでいた。年が開けた今年の一月の二日に三鷹西署の交通課勤務している同期の田所美穂子と入籍を済ませ、達夫の其のマンションで新婚生活を始めた所なのである。
美穂子はスコティッシュホールドの雌猫シンスケを連れて嫁いで来たので二人と一匹の暮らしだ。そのシンスケは女の子なのであるが、思えば紛らわしい名前を付けられたものだ。薄いグレーの縞模様がその身体に転々とあって、手足の短くて可愛い。
美穂子は食事の準備をしながら時間を気にしていた。達夫が中々起きて来ないのだ。オニオンスープも冷めてしまう。出来合いの粉のスープにお湯を注いだだけでは有るが。朝は忙しいので仕方がないと自分に言い訳をして
もう出勤する準備を整えていた。時計を見ると七時を回っている。
「シンスケ、たっちゃんを起こして来てよ。」と話しかけるとシンスケはキョトンとした顔を美穂子に向けた。
、そうだよね、分かる筈ないものね。シンスケには。
さて仕方ない、起こして来るか、とテーブルから立ちあがろうとしたその時ワタワタとネクタイを締めながら達夫がリビングに飛び込んで来た。「昭島で殺しだ、で出かけるぞ。」と慌てた様子である。美穂子は「あらーご飯はー?」と聞いた。達夫は忙しそうに「そんな時間は無いよ。車の鍵を頂戴!」と美穂子を急かした。署からの電話を受けて飛び起きたが達夫はその署からの電話を受けた瞬間から殺しと聞いて言い知れぬ胸騒ぎを覚えているのだ。
キーを渡しながら「気をつけてね。」と飛び出す達夫を見送った。達夫は百八十センチも身長が有り筋肉質のしっかりとした身体をしてるのでまるで部屋の中をダンプが走り抜けたような気がする。
「帰りは何時になるのかな?ね、シンスケ?。」シンスケに分かる筈も無い。「刑事の奥さんになったってこうゆう事よね。」美穂子は独り言を猫を相手に楽しげにぽつりと放った。

主な登場人物
東堂達夫 二十九歳 昭島東署捜査官1係
新婚である。
真岡友司 四十二歳 同署達夫の相棒
女っぽい 独身
谷口光男 五十八歳 同署捜査課課長
警部である 妻帯者
長洲美智子 四十一歳 同署捜査1係主任
独身
末永友春 五十九歳 同署捜査1係
昇進を嫌う叩き上げ刑事 妻帯者
原 有三 二十五歳 同署新任捜査員
新人類の捜査員
小川幹子 二十五歳 新任捜査員
真面目な性格だが柔道の達人
田中きい子 二十五歳 同係の情報処理担当
明るくてみんなのマドンナ
三崎曜子 二十七歳 東堂の高校の時の後輩
折本圭子 二十七歳 同上

小山田徳雄 五十八歳 警視庁地域課地域総務 昭島東署安心安全課と連携
妻帯者 まだ十歳の娘がいる。
名物巡査部長

新田彰男 六十二歳 立川に本部が有る暴力団、方界組組長 曜子を囲っていた

五十六寅吉 三十二歳 同組組員 この男凶暴

東堂美穂子 二十六歳 達夫の妻
三鷹西警察署交通課勤務
シンスケ 東堂家の猫
スコテッシュフォールド女の子

木村正人 39 性格の怪しい鑑識官。だ が現場証拠は見逃さない。 以上その他大勢

果たして現場は辛酸を極めていた。現場の隣の住民が出勤の為に玄関を出た時その部屋のドアーが少し開いてたのを不審に思い恐る恐る入り、寝室の其の様を発見したのである。
それは曜子のマンションであった。近辺は警察車両と見物の人が取り巻き、既に規制線が貼られていた。其の第一発見者はパトカーの中で事情聴取されている。出勤の足を止められて機嫌が悪そうだ。少し頭の禿げた四十代くらいの男性である。
鑑識班の班長小田が先に入りそれまでに判明した分の所見が谷口警部に伝えられた。害者は二十代後半から三十代の女性でこの部屋の住人と見られる事。凶器は其の差し口から刃渡り18センチ位の包丁の様なもので有ると思われた。最初に害者の左背中を一刺し、それが致命傷だろう事と更にそれから腹や左肩太ももなど七箇所に及び刺されたもの。執拗に留めを刺しており、ホシの凶暴さが見受けられた。其の凶器は発見されては無く犯人が持ち去ったと思われ、その刃先からの血痕があちこちに散らばって落ちていると報告された。だが玄関に続く廊下には血痕は無い。寝室全体に血痕が飛沫している。そこから彼らは現場の状況を見極めるのだ。そして死後硬直はまだ余り無いことから犯行時間は早朝四時から六時頃だと推察された。犯人は手袋をしてベランダへよじ登って柵を超え窓ガラスを切り鍵を開けてそこから入り、犯行後玄関から出たと推察された。部屋は荒らされて何かを物色した様子が有り、少なくても犯行後十分位は部屋の中に居たのではとみられた。
やはり複数の指紋は有るが手袋を着用していたと見られホシに繋がる指紋が有るかは疑わしい。今は鑑識捜査員らがゲソ痕を採取しているところだった。
達夫の不安は的中し其れは紛れも無くこの間張った曜子の部屋であったから彼は覚悟を決めて現場に入った。割られた窓の部屋はベットが置かれ、うつ伏せに倒れている其の遺体はやはり曜子に間違いなかった。心臓が一瞬止まった。いや止まるような気がした。
飛沫した血痕が窓から天井に掛けて特におびただしく有り、ベットの曜子の左肩から背中全体に凄い血溜まりが見える。あの曜子が瞳を開けたまま物を言えない骸となって倒れていた。達夫はその曜子が自分を睨んでる様に見えて仕方がない。瞬間にあの鈴木の顔が浮かんだ。人だかりの中に居なかったか、監視カメラに何か写ってないか、達夫は動揺しながら谷口に遺体はこの部屋の住人で話して於いた知り合いの三崎曜子である事と鈴木の行動を調べたい旨を伝えると、よし真岡と当たって来い。場合によっては任意同行だ。」その谷口の命令に部屋を出ようとしてこの部屋の全体をふと垣間見た。そこにまた違和感を覚えた。曜子一人の住まいにしてはかなり豪華だなと感じたのだ。とにかく真岡捜査員を呼びながら現場を飛び出した。
鈴木は現場近くには居ない。もうサニーマートニ出勤していたのだ。
任意同行を求め鈴木の身柄は既に署内にある。これから事情聴取するのだがそこに少し疑念がある。曜子を襲い残虐な殺し方をしたホシを早く挙げたいのは当然の事だが取り調べ室にいる彼からそんな残忍なホシの匂いが全くして来ないのだ。これは達夫なりの積み上げて来た経験から感じている事だった。
真岡捜査員と達夫、婦人捜査員の小川幹子とで鈴木の事情聴取が始められた。小川は記録を取っている。鈴木と対面に真岡が座り聞き出した。「来て貰った理由わかる?」
鈴木が真岡の顔をまじまじとみている。無理も無い、真岡は女っぽい話し方をする。しかし心は女性では無い。
限りなく怪しいが・・。
「し、知ってます。あの人殺されたんですか?」と答えながら鈴木の眼は何処か笑っている様子だ。
「実はね、その殺された三崎曜子さんは前にあなたから纏わり付かれて困っていると生活安全課に相談に見えていてね。ほら、君の写真を持っていたの。」真岡は机にあの写真を置いて見せた。其の写真を食い入るように彼は見ていた。「君だね。」と言われると鈴木はきっと真岡を見据えて言った。
「確かにこれは僕です。でもストーカーでも無いし、まして殺してなんかする訳無いですよ。」「なら、なんで毎朝三崎さんの部屋を見上げてたの?」真岡がそう聞くと、「全く言いがかりですよ!被害を受けたのは店と僕の方です。」と言う。壁にもたれて成り行きを見ていた達夫はその言葉が意外だった。「それ、どういう事?」と詰め寄って達夫が聞いた。鈴木は達夫の顔を見て話し出した。「彼女良くうちの店に来るんです。だけど困った客で、」少し間を空けた。「買った品物にイチャモン付けたり、他の客に有ること無いこと大きな声で言ったり。」「彼女がいると他の客が店を出てしまうほど文句をつけるんですよ。まるでヤクザみたいな乱暴な言葉で。」達夫は唾を呑み込んだ。全く信じられない証言を今聞いている。「それで君や店はどうしたの?」
「ほんとに嫌な客で来て貰うの迷惑なので店長が奥で対応してました。多分現金か商品をあげてたんだと思います。」いつも勝ち誇った顔して帰ってたらしい。「だから僕、腹が立って、店に行く時どうしても彼女の部屋を睨んでしまってたんです。あんなに凄いマンションに住んでるのにと思いましたよ。」真岡も達夫も小川も絶句した。「でもだからって誓ってあの人を殺したりしません。」
彼女の事は店の者全員と乗客の一部の人が知ってる訳で、その彼の言い分は本当だと思われた。
暫く沈黙の後真岡は「これは関係者の皆に聞くのだけれどね。今朝の四時から六時頃、君は何処に居たの?」と型通りの質問を投げた。「六時には起きてましたけど四時はまだ寝てましたね。僕は一人暮らしです。あ、でも丁度六時に店長から電話が在って発注の確認だったのですがその事で僕直ぐに店へ行きました。」彼の話したことが間違い無ければ彼にはアリバイの無い二時間が存在している。が、どうも彼の話す事に嘘は無い様に思える。残忍な殺害をしたのなら彼の何処かに拭き取ったり洗ったりした返り血の痕跡が在っても不思議では無い。第一着ている服にもその痕跡が無くて彼は終始落ち着いていたから、ついさっき大胆な犯罪を犯したと言う気持ちの動揺は見られなかった。
既に裏は取りに動いているがこの男はホシでは無いと達夫は確信していた。
これ以上聞く事は無かった。暫くすると真岡のインカムに現場にいる谷口から、サニーマートの店長が確かに発注の事で電話をかけ、その後急いで店に来て貰ったがその時に普段と変わった様子はまるで無かったとの証言が取れたので一旦解放するようにと声が流れた。
達夫は先に取り調べ室を出た。居た堪れなかったのである。曜子の変わりように全く失望に似た感情が湧き上がっていたのだ。それにあの恐れ方は一体何に対してだったのだろう。鈴木の事にカマかけて実は他の影に恐れていたのでは無いのだろうか。そんな闇夜にもくもくと湧き出した雲の様に否定しようにも出来ずにいる。その思いを消す事は今はとても難しい状況になってしまった。
「ご協力有難う御座いました。もうお帰りになって結構よ。」とドアの外に真岡の声が響く。彼のしなしなした話し方は相手を怒らせない。
なら、一体何が在って誰に曜子が殺害され無ければならなかったのだろう。疑惑は大きくなるばかり。確かなのはこの事件は振り出しに戻ったと言うより今始まったばかりでこれからだと達夫は思うのだった。
警視庁の捜査一課も乗り出して昭島東署に帳場がたった。「暴力団組長愛人殺人事件」。 一斉に捜査が始まる。達夫のように所轄の刑事も捜査一課もマル暴の捜査員も一丸となって捜査に当たる事になる。裏に暴力団が見え隠れしているからだ。捜査会議が終わったらふと圭ちゃん、折本圭子に会って見ようと達夫は考えていた。何らかの鍵を圭子が持っているかも知れなかった。初動捜査を終えた捜査員達が集まって来た。警視庁の捜査一課管理官恒川浩二、五十二歳の一声で始まった。
「これからこの残忍なマンション殺傷事件の捜査会議を始めます。」会議室の空気が締まる。「それではこれまでの捜査を報告して下さい。」昭島東署署長の声が響いた。「捜査三係(マル暴)班長戸田です。詳しい調べはこれからですが、これ迄に害者三崎曜子が立川曙町三の二の二番地に本部がある暴力団方界組組長新田彰男六十二歳の愛人である事が判明しております。現在新田は脳溢血で倒れ寝たきりとなってますが話は出来る状態で自宅療養してます。現場となったマンション昭島市東京台一の四の三 二 0五号室もその新田が三崎曜子二十七歳に当てがっていたものと分かっております。」其れを聞いて達夫の気持ちは音を立てて砕けた。
はい次!
そんな思いを断ち切って達夫が立った。「昭島東署捜査課一係の東堂です。害者の三崎曜子から一ヶ月前にストーカーの相談を受けました。ストーカーの容疑者鈴木洋一を今朝一番で任意同行し取り調べましたが白である事が勤め先の店長の証言を得られ事件は振り出しに戻った訳です。」精一杯の発言であった。管理官が「東堂、今回の被害者とは知り合いと聞いたが間違いないか?」と聞かれた。
現実が表に出てる以上素直に答えるしかない。「はい、地元の高校の後輩です。」「そうか、捜査に影響の無いように頑張ってくれ。彼女に思い入れは無いな。」そう言われて達夫は思い入れが有るとしたら曜子の裏の顔を見抜けなかった自分の甘さだけなのだったからハイっと返事をして席に座り直した。
その時には一人の刑事としてこの事件解決に向けて頑張るのみだとそう気持ちは定まっていた。「次、鑑識!」ガタッと音を立てて鑑識班の班長小田が立った。其の小田の誠に真面目な現場の捜査の結果が報告され、最後にこれ迄の聞き込みの報告と害者を囲っていた新田彰への事情聴取をマル暴の協力を経て行う事が捜査一係からされた。第一発見者からの証言以外大胆な犯行にも関わらず直接容疑者に繋がる証言は無かったが、その第一発見者は容疑者である可能性は極めて低いと既に分かっている。それから管理官の更なる早期解決への激が飛んで捜査会議が終わると会議室を出る捜査員をかき分けて遺体解剖の分かっている分の所見を持って立川第一大学病院の法医学解剖医が谷口に一報するため入って来た。間もなく捜査員達にもその情報が入るだろう。ご遺体が語る事は案外と多くこれからの捜査の飛躍的な進展をみる。そんな事も少なくないのだ。会議室を出て其の廊下を曲がると首を捻りながら歩く鑑識の木村とすれ違った。変わり者で面白いやつだ。
「何考えてるの?」と声を掛けると今気がついた様にキョトンとしている。
達夫の顔をしばらく眺めて廊下の先を見つめると顔の横で手を・なんでもない・とでも言うように振って、また首を振りブツブツと何かを言いながら過ぎて行った。・全く変わったやつだなぁ、でも何かを掴んで調べてるのかな?・彼は鑑識の腕は良い。侮れない男なのだ。そのヒョロんとした後ろ姿を見送りながら達夫はそう思った。
その後自販機で珈琲を買うと外の空気を吸うため署の屋上へ上がって居たのだ。
昔の曜子を思うとどこかで彼女のその変わりようを否定したい気持ちが有るのを隠せない。爽やかな風の吹く青空を見ながら珈琲を飲み干し、何にしても俺がホシを挙げなければ酷い殺され方をした曜子は浮かばれない。こうはしてはられないな。頑張ら無ければ...。
達夫は自分の気持ちを鼓舞する様にそう言い聞かせた。
街並みを超えて遠くに高尾山から御嶽山の連なる山々が見えた。その上に拡がる空を見つめてそこにホシの手首にわっぱを掛けるその時の自分の姿をしっかりと焼き付け、彼は捜査員室のある階下への扉を開けた。
二階に有る捜査員室に戻ると見知った顔の女性が真岡に案内され谷口警部と話していた。何度も吹奏部のコンクールで会っている。曜子の母親、三崎妙子だった。仕方がない事なのだがやはり胸が痛い。
当時より幾分か小さくなったように見える。やがて応接室の椅子に案内されて席に落ち着いた。妙子はハンカチを目に当てている。慌てて来たのだろう。身につけている洋服もバックもチグハグに見える。無理も無い。千葉の浦安から取り敢えず乱れた気持ちを抑えながらここまで来たのに相違ない。父親の姿は無い。確か夫婦でコンクール等に見えてたのを思い出した。娘がこんな目に在って来ない父親は殆ど居なかったから、曜子の父はこの十一年の間に離婚したか亡くなったのかも知れなかった。達夫はそんな風に思った。
達夫も警部に促されて同席した。その時其の後ろに回ってきた真岡が「ご遺体をご確認して頂いたの。間違いないそうよ。」と耳打ちして去って行った。その真岡の口調に、捜査員の中に女性は三人、その一人は情報処理関連を任されている事務方田中きい子二十五歳と捜査員として新任の小川幹子二十五歳、キャリア捜査員の長洲美智子主任四十一歳だけだが達夫は此処には四人目が居るなぁと思った。だが、しなしなした身体の動きと話し方に惑わされてはならないのだ。彼は優秀な捜査員で其の的確なホシへの執念が表に出、真岡が男を見せるのを達夫は度々見て来ている。二年前の春、三鷹西署捜査課からこちらに移って来た。
「この度はご愁傷様でした。」警部と達夫が深々と頭を下げた。顔を上げた時妙子は不思議そうに達夫の顔を見つめていた。「あ、あのもしかして、間違ってたら悪いんだけど吹奏部の……」「あ、はい。浦安坂波高校で曜子さんと吹奏部で一緒だった東堂です。」途端にその目が潤んだ。「なんて事だっぺね。最後に東堂君に世話になるなんて……。」その後は言葉が出てこない。俯いてしまった。「うちの東堂と曜子さんは友達だったとお聞きしてました。何かの縁ですね。」と谷口が言うと「ほんとにあのバカタレがここんとこ家にも何年も帰って来なくて何してたんだか気にしてたんだわ。」とまた涙を拭う。「お母さんはこちらで曜子さんがどんな生活されていたかご存知でしたか?」と聞くともっと下を向いてしまって「もう五年も前になっかな、それまで務めていたところを辞めてから何してんだか知らないんです。電話で話した時も上手くやってるから心配するなって。」「そうですか、こんな時に何ですが娘さんは立川の暴力団の組長の愛人だったらしいんですよ。今其方も確認しているところなんですが。」妙子は顔をあげた。驚いているようだ。「そ、そんな事、娘にか、限って。」もう後から後から涙が止まらなくなっている。「ほんとに曜子ちゃんの事を変だと感じた事無かったんですか?」達夫は疑問に思っていたその確信の所を聞いた。「曜子は仕事も辞めてから新しい仕事が決まったととても喜んでたんてす。」「それはいつ頃の事ですか?」「前のところ辞めて二か月位たった頃かな。んだから心配すんなって娘がゆうから安心してたんです。そのあとの事はなんにも知りません。帰っても来なかったし。」少し訛りのある話し方のこの妙子から嘘は感じられなかった。やはり五年前に何かが起こり曜子を変えたと思われた。
警視庁と所轄の我々が一日も早く犯人を逮捕すると警部がこの悲しみの上に娘の実情を聞いた妙子に約束した。そして曜子の遺体は司法解剖の全てが済んだらお返しすると丁寧に説明をして妙子を引き取らせた。独りで娘の残忍な死を受け止め無ければならないこの母に達夫はこれ以上何も聞く気持ちにはなれなかった。何処かに宿を取るのか、ひとまず浦安に帰り連絡を待つのかこの哀れな母親の携帯に自分の携帯番号だけ記録させて返したのである。
其の携帯に曜子はメールもする事は無かったのか。五年もの間音信不通になるなんてやはり普通では無い。何か事情があるのは違い無い事だ。
「真岡と友達の折本圭子を当たってみます。」と谷口に言うと「彼女の居場所はきいちゃんが調べてる筈だから。」と言う。はい、と返事はしたが、警部はいつの間に折本圭子の存在を把握したのだろうか。疑問を残しながらデスクに向かうと既にきい子から真岡がメモを受け取るところだった。「いつも仕事早いねぇ~さすがだわ。」真岡にそう言われきい子は照れながら手で追い払う仕草をして「早く行って来てくださいな。」と笑っている。きい子は聡明で朗らかであったから捜査員のマドンナ的な存在になっている。そしてともするとギスギスとなりやすい事件の時など捜査員に対して良いクッションの役割を果たしていた。そうか、警部は真岡さんから聞いてたのに違いない。そう、理解して達夫は背広を椅子の背もたれから取るとおっつけ来た真岡と捜査員室を飛び出した。メモを見ながら「圭子は小平団地にいるわ。 急ごう。」 と真岡が言った。おう、と達夫が運転席に乗り組むと「話した事無かったかな私。」と話しかけて来た。
うん?達夫はなんの事かなと思いながら走らせ始めた車を左にハンドルを切り、小平市へと向かい始めた時だった。「私ね、三鷹西署にいる時に組んでた人ね、東堂さんと似てるのよ。運命なのかしらね。」「へー、俺何かに似てる奴なんているの?」「 居るわよ、やっぱり熱血漢でね、そう長い間組んだ訳では無いけど気持ちの良い捜査官だったわ。」「同じ課の人と結婚してね。同じところでは働けないから彼の方が移動したのよ。」「そうなんだ。」「そしたら東堂さんも今年結婚したでしょ?でも良かったわ。」「何が?」「だって、奥さん私がいた三鷹西署の交通課の人でしょ?」「うん。」「移動し無くて良いじゃない。」「そうなんだけど俺より彼女通勤が大変でね。家は動かないから彼女移動願い出してるよ。元の鑑識官に戻りたいと思ってるらしいし、近くの署に空きがあるといいと思ってるんだけどね。」
ふと美穂子の結婚生活を頑張っている姿が頭を過ぎる。「大変なのよね。だから私は結婚しないの。」其れを聞いてこの男に聞いてみたくなった。・もし結婚するなら男とか?・と、しかしその言葉は慌てて呑み込んだ。「あら、私は女の人とするわよ。相手が居たらね。」見透かされていた。こう言うところが真岡らしい。この男にはそんな感が働く鋭いところが有った。
小平団地は小平と国分寺の境にある大きな公団である。同じ様な建物が何棟も並んでいる。その様は壮観であって、住所を聞いていても目的の家を探すのはそれなりに大変なことだ。でもきい子が全て調べてあり、そこには地図も付いていたので迷わずに部屋の前まで行き着く事が出来た。十一棟三百一号室、折本、此処だ。達夫がインターフォンを押した。どなた様でしょ?若い声では無い。「すみません昭島東警察署の者ですが圭子さんはご在宅でしょうか?」少し間があって「圭子は、今、あの、」そこまで行ってドアーが開いた。中年の女性だった。達夫と真岡が捜査員証を提示して「あの、圭子さんのお母さんですか?」と聞いた。うなづいている。「高校生の頃からの友人の」そこまで言ったらその母親、政美の顔色がサッと変わった。「圭子さん。今何処でしょうか?どうかされましたか?」「け、刑事さん中へ、中へ入って下さい。」玄関先でドアーを開けたままこの話題は差し障りが有るらしかった。それにこの政美は何かにとても怯えて居るようにも見える。
呼ばれるまま奥のリビングに入るとその政美は今気がついた様に開いたままのカーテンを急いで閉めた。三人はリビングに立ったままでいた。真岡の手を取った政美は「どうか、どうか、圭子を助けて下さい。」それは必死な訴えだ。懇願に近い。「お母さん、まず落ち着きましょう。座って良いですか?」達夫は殊更に落ち着きを見せて促すと。その小さな身体を乗り出してはい、と自らテーブルの椅子に付くと二人にも促した。
その座るのを待てなくて「曜子さんが殺されたのをさっきテレビのニュースで見ました。直ぐに圭子と関係があるんじゃないかと思って怖くて、そしたら其のすぐ後怖い電話がかかって来たんです。」
どんなですかと真岡が聞いた。
ドスの効いた男の声でした。急いで録音したんです。とスマホをポケットから出した。
「圭子は今朝早く帰って来て、やばいからほんとにやばいから私逃げるわ。」「ほとぼりが済んだら連絡するから。」と言ってワタワタと出ていきました。家の前までタクシー着けて。」そんな事を政美が話してる間に真岡は録音を聞く準備を整えた。「そうですか、では録音聞いて良いですか?」政美はうなづいた、「圭子は何処だ。「あの、・あの子は二、三日旅行に出かけたんですが、・」「何だと!逃がしたな。おい、どうなるか知ってて逃がしやがったな。」「そ、そんな、それにどなた様ですか?」「あいつは俺達の大切な物を盗んで逃げたんだ。!どこへいった!」「おい何処へ行ったんだ?」男はかなり慌てている様子である。そしてこの男の話し方にこれは組の男だなと達夫は感じた。真岡もそうだろう。「し、知らないんです。ほんとに何処へ行ったのか。」「うるせぇーばばあ!隠し立てしたらお前の家に爆弾投げ込むぞ!」「待ってろすぐ行くから!」怖くてそこで政美は電話を切って震えて居たという。それから一時間位の間その男から電話も無いし爆弾も投げ込まれては無かったが、そこに達夫達が訪問したのだった。「あ、あのあなた浦安の、」思い出したようだった。「はい吹奏部で圭子さんと曜子さんと一緒でした。東堂です。」ふっと安堵の顔を見せた。
「あ~やっぱり刑事さんになったのですね。」「あ、お茶も入れずに私ったら。」その政美の顔を見ながら、やっぱり?あの頃警察官になりたいなんて誰にも話した事も無いのに、え?何で? 達夫は胸の内で自問自答した。
「いえ、お構いなく、私達は仕事ですから。」「何か曜子さんの事でご存知ないですか。圭子さんから僅かの事でも良いのですが聞いてませんか。」気を取り直してそんな事を聞いてる間に真岡はリビングを出て署と連絡を取った。「警部、どうも今度の事に折本圭子も関係してるらしく圭子は逃亡して行方が分かりません。其方はこれから乗ったタクシーを探して見ますが……が、」「どうした?」「折本の母親がどうも良くない筋から今回の事で脅迫されてるみたいで、爆弾を投げ込むと電話の録音に残ってました。そのコピーは預かりました。こちらに応援の警官をよこして貰えませんか。」「分かった手配する、交代が行ったらそのコピーした情報を渡してくれ。」このような時真岡の対応は早かった。「あの子はこちらに帰って来てから変わってしまいました。」「浦安にいた頃はほんとに明るくてしっかりしてたんですが。」「五年前に曜子ちゃんに働き口紹介した頃からあの子は変で生活も荒れていきました。」「その辺は我々も探って見ましょう。取り敢えず行方を当たって見ますが、ホントに心当たり有りませんか?」「すみません、ホントにすみません。」政美は辛そうに頭を下げて謝るばかりだった。「お母さん、このコピーから何か手掛かりが見つかるかも知れません。まず圭子さんの足取りを調べたいので、乗ったタクシー会社分かりますか?」と自分の携帯を持ちながら聞くと暫く考えていたが三信交通とつくば観光が多いけど何方かは見て無いと言う。「三信交通とつくば観光ですね。有難うございます。当分の間警察が此処を見張ります。交代が来たら私達は圭子さんの足取り捜査始めますので、何か有ったら直ぐにここに連絡を。と言って二人の名刺を渡すと「分かりました。有難うございます。ほんとに有難う。」その名刺を受け取る手が震えている。それ程怖かったのだろう。そう思った。「それではそれまでは外で待機してますのでね。安心してね。」と真岡が伝え二人は車に戻った。警官が来るのを待つしかない。それは長い時間にも思えた。
真岡はきい子に電話した。「きいちゃん。小平の三信交通とつくば観光の住所教えてくれる?」真岡のする事にそつがない。
「圭子の足取り掴めたらどこかで飯にしょう。考えたら朝飯食って無いし。」と達夫は真岡に言った。「ほんとよ、我々の仕事は身体に良くないわねえ。」ほんとにそうだ。一度このような事件が起きると捜査の最前線に居る捜査官達は常に緊張の戦いになる。ちょっとの油断が大きな取り返しのつかないミスとなってしまう。そんな事を思っているとインカムにきい子の声が響いた。
「分かりましたよタクシー会社の住所。」こっちもすげぇスピードだなぁ~。と感心する。捜査員はたくさんの人達に助けて貰ってホシを追う事が出来るのだ。程なく二人の携帯にタクシー会社の情報が送られて来た。
わっぱを掛ける捜査員の影にそうした周りの努力がどうしても不可欠で有り、その意味に於いてきい子はとても頼りになる存在だ。捜査の最前線に出なくてもそれはもう立派な捜査官なのである。誰かがホシにわっぱをかけた時そんな陰の警察官達がいつも一緒にわっぱを掛けてるんだと達夫は思っている。
小川町に三信交通の営業所があった。其の事務室に入り今朝の早い時間に小平団地から若い女性を載せたタクシーが無いか聞いてみた。カマキリに似た顔立ちの事務員が無線でその話を聞いてくれたが圭子を乗せた車は無い。非番の運転手に聴いても誰も乗せていないと言う。二人の刑事は鷹の台に急いだ。そこにつくば観光がある。構内に何台か発動して無い車が並んでるのを見ながら事務所に入るとまだ明け番の運転手も僅かながら残って遊んでる様子だ。同じ事を聞いてみた。珈琲を飲みながら事務員と談笑していた運転手が振り返って達夫の方に話しかけた。「あーそれならヨシさんだわ。」
「ヨシさんですか?」「うん、小平団地の棟の前で慌てている様子の女を乗せたんだけど様子が変だったって言ってて、だから覚えていたのだけど。」気の良さそうな丸い身体をしているその男は「まだ寝てないと思うから電話しょうか?」と言ってくれた。「ヨシさんか?マルだけど、ほら今朝の様子が変だったって言ってた小平団地の。うん、その女の客の事で昭島の警察の人が事務所に来ていてね。今来れるか?」電話を切ると「急いで来るってさ。近いからなヨシさんち。」マルさんが気の良い人で良かった。と思う。五分ほど待つとそのヨシさんが自転車で駆けつけて来た。
「明けのところ戻って来て貰ってすみません。昭島東署捜査一係の東堂と真岡です。お疲れのところ少しお話を伺いたいのですが。」ヨシさんは鈴木寛と言う。どうしてヨシと呼ばれてるのか鈴木寛と言う名には繋がらない。コンビニのあの店員と同じ苗字だ。日本にはよく有る苗字、このヨシさんもかと達夫はちょぴり楽しい気分だ。背が高く五十歳くらいの強面の男だ。少し緊張する。事務所を出て外で話し始めた。「早速ですが今朝早くに小平団地から乗った女性の事なんですが。」鈴木は納得した様にうなづいて「彼女の事ならよく覚えてるよ。」と言った。「様子が変でしたからね。」どんなふうでしたかと真岡が聞くと。「とにかくね派手な格好でね、追われてるみたいに落ち着いて無かったね。」行き先を聞いたら暫く適当に走ってそのあと中央線の三鷹駅迄行けと言ったらしい。
街を適当に流してる時も絶えず後ろの車両を気にしてたな。と言った。
「そうですか。三鷹駅に着いたのは何時頃でしたか?」と達夫が聞くと七時は回っていたよ。と言う。ショッキングピンクのスーツに茶髪で、アップにしてサングラス。大きな旅行カバンを抱えていたと鈴木は話してくれた。「何の捜査ですか?」「昭島で起きた事件の関係としか話せませんが助かりました。有難うございます。」と言うと「あ、あのマンションの事件ですか?」「詳しい事は話せないのですがま、そんなところです。」「ゆっくり寝て下さいね。有難う御座いました。」と真岡が言うと鈴木は何故だかガッツポーズの様に拳をにぎりしめて、「ヨシ!」と言った。マルさんが振り返って笑っている。あーそれでヨシさんなのか~。ひとつの謎が解けた瞬間だった。そのヨシさんは二人をニコニコと暫く見送っていた。人は見かけに寄らないものだとつくづく思う。
署に連絡を入れた。「折本圭子は今朝七時頃に中央線三鷹駅から電車に乗った模様です。至急監視カメラのアクセス要請してください。派手なピンクのスーツに茶髪のアップした髪型をしておりサングラス着用、大きな旅行カバンの女です。目立ちます。それから今朝九時頃から十時半位迄の間千葉の地下鉄浦安駅で下車してないかそちらの監視カメラも当たって下さい。これから署に戻ります。」と。浦安は東京メトロ線の駅である。浦安に行くと確信した訳では無いがそれは達夫の感だった。
人は姿を隠すにしても土地勘が無い所は選ば無い気がしたからだ。浦安には圭子は小学生の後半から高校を卒業する迄住んで居たところだ。もしかしてと考えたのである。違えば追うのが時間を要して難しくなると言う事に他ならない。時間との闘いとなる。其れはほんとに賭けであった。
署へ戻る道々小平市を出て立川に入った頃、夢庵でやっと食事を摂った。朝から動いてもう十一時を回っていた。穏やかだった天気もその頃になると風が強くなって来ていて低く垂れた雲が青空の一部を覆い初めてい、木々が少し揺れ始めていた。雨になるのも時間の問題のようだ。夢庵の大きな窓からそれを見ていた達夫が「おいおい雷にでもなるのかな?」と言うと「急がなくてはねぇ~雷は嫌いよ。」と真岡が笑いながらハンバーグを口に運んだ。窓から望んだ空はそれ程に暗雲が広がって来ていたのである。車に戻る時音を立ててとうとう大粒の雨が降ってきた。あっという間に足元のアスファルトが雨で黒くなった。間一髪二人は車になだれ込んだのである。
署に戻ると既に三鷹駅周辺と浦安駅の出口付近の監視カメラのデータが送られて来ていて、きい子が確認作業に没頭していた。警部はデスクにいたが他の捜査員は引き続き聞き込みに出ていていない。
曜子の死因はやはり背中のから心臓への一撃であった。容疑者の遺留物はほとんど無くいきなりの殺害であった。だが唯一ゲソ痕から靴のメーカが割れていた。ブランド品の短靴で都内で三店舗、高級品で十足程が売られていて二十七センチの靴だったから十足の内に其れは三足しか無くこの靴の持ち主が早々に特定出来るかもと谷口が言った。今その三店舗に小川捜査員と末永捜査員、新人の原捜査員を当てていた。新人の二人とたたき上げの捜査員、あの二人には良い勉強になるなと達夫は思った。
その時、「警部居ました!」ときい子か叫んだ。ワラワラと三人がきい子の後ろに回った。「ほら三鷹駅の歩道橋のエスカレーターに。」「そして南口の駅入口からの映像に。」時間は七時五分。見ると確かに圭子だ。ヨシさんの言う通りの姿でかなり目立っている。カバンを抱えるように駅の構内に入って行った。
「そして浦安の方ですが、これ彼女ですよね。今鮮明化します。」見るとメトロ線、浦安駅の出口から出て来る彼女が写っている。駅の周りに大きな黒い樹が有り、暗いためにハッキリとした映像では無いが時間は九時二十分、圭子に間違いは無かった。
「よし、千葉県警に協力を要請しよう。」と谷口はデスクに急いだ。
達夫の感が的中した瞬間だった。
曜子を殺害したのが組の者なら圭子の持ち去った物が現場の物色のその物かも知れず、言い換えればそれは圭子にも危険が迫っていると言う事に他ならない。事は緊急を擁していた。
現場に残ったゲソ痕(靴の裏の痕跡)から割り出し、販売した羽村市にある靴店から購入した人間が判明していた。やはり方界組の構成員だった。写真で確認したのである。五十八寅吉三十八歳。この方も事件後足取りが掴めなくなっており、この男は重大な鍵を握ってい、今の段階では本ボシに一番近い男だろうと推測された。第一被疑者である。緊急捜査網がひかれた。そちらの捜査にも人手が取られる。人手を分けて千葉県警の協力を得、圭子の足取りを洗う事になった。昭島東署からは谷口警部と真岡が当たった。だが浦安の駅を出た後の圭子の足取りはその後二日を経ても表に出て来なかったのである。足を棒にして聞き込みにまわっている捜査員達もその頃になると疲れから焦りが見えて来ている。
達夫が捜査のちょっとした時間に戻って自分のデスクで昼のラーメンを啜っているときい子がパソコンの画面を見つめながら何かを探している様子だ。
「何かあるの?」と達夫が箸を持ったままきい子のデスク迄行くと小川も側にきた。きい子は達夫達の顔を見上げながら言った。「これだけ当たって足取り掴めないなんて変でしょ?」「ん、」「だからね。彼女が浦安を降りた時の映像を確認してみてるの。」「何か分かった?」「特には無いのだけれどどうも気にかかる映像を見付けたのよ。ほらここ。」ときい子の指が指している所を観るとそこには地味なトッパーとスラックスをはいて上り口を通過する女が写っている。髪はショートでメガネをかけている。其れはウィッグを付けてるようにも見えた。時刻は圭子らしき女が浦安駅に降りて十分も経っては無い。
「ここを鮮明にしてみるわね。」と自分のメガネを左手で上げながらパソコンを操作する。
どんどんとその顔が鮮明になって行く。達夫は小さく、アッ、と言った。椅子のガタつく音が複音となって聞え、安永、長洲主任、原捜査員もいつの間にか戻って来たらしくきい子の後ろに回って来た。
「似てる?」ときい子が聞いた。
似てる。確かに似てる。とうなづいた。「メガネ外してみるわね。」そこに映った女は圭子に間違いなかった。歓声とも言えない声が湧いた。誰も浦安をこんなに早く移動するとは考えもしない。捜査の盲点を突く行動を圭子はしていたという事だ。誰かを撹乱する為かまたは惹き付ける行動だと達夫は考えた。
圭子は浦安に一旦戻り、直ぐまた東京に戻ったというのか。不思議な行動をしてるな、と、そう小さな声で呟いた。
「警部に画像送ります。」 ものの五分もしないうちに谷口から電話が入った。「お疲れ様です。」と達夫が言うと「彼女みたいだな。どこで降りたのか追えるかな?」振り返るときい子は既に主要な駅の監視カメラからの映像を追っている。さすがだ。
「今探してます。ヒットしたら連絡入れます。」谷口と真岡は協力して捜査に当たっている千葉県警の捜査員課長に報告し急ぎ昭島東署へ戻って来た。
その頃には圭子と思しき女が立川駅の北口を出る映像が見つかっていた。
画面に映るその姿を見て「間違いないな。折本圭子だ。」と谷口が呟く。
小川が「もしかしたら警部、これは本ボシに繋がるかもですね。」いかにも新人刑事らしい小川を谷口は制した。「いや、まだ分からん。立川署と連携して足取りを追おう。ま、大きな鍵である事は間違いないだろう。」「気が早いわよ小川!、」真岡が小川の背中を軽く押すと瞬間的に幹子は背中をピンとさせて谷口に小さな敬礼したものだから久しぶりに周りの捜査員の顔が緩む。だがきい子はまだ監視カメラを追っていた。時折ずり落ちるメガネを上げながら、眼鏡の脇から見えるきい子の黒い瞳は猫の獲物を狙う様にギラギラと画面を見詰めている。凄い執念だ。小川、原とともに捜査課の新人で個性は夫々なのだがその若い行動力は周りの捜査員の捜査意欲を上げたのは間違いない事だ。
達夫も真岡と、長洲と原、末永は幹子とそれぞれ立川へと捜査員室を飛び出して行った。
あの事件の朝現場が荒らされていた。何かを探したように。何らかの理由でそれが圭子の手元に移っているとしたら曜子は暴力団の組長の愛人。それが何であっても殺人を犯してまでも手に入れたいものである筈で、しかも組み関係の容疑者が今、圭子を追って居るのは容易に考えられる。一刻も早くその身柄を確保しなければならない。
圭子の母親から教えて貰った圭子の携帯は電源が切れてそこから追う事が出来ずにいる。電源を入れる事の危険性を考えて切っているのだろう。何回電話を入れても電源が入る様子は無い。「 折本圭子が事件当日の九時半に駅前通り商店街の監視カメラに写っています。」きい子からの報告が入った。立川の駅辺りには流石に監視カメラはそこかしこにある。だが上手くそれを利用して逃げている様子も見受けられる。きい子からの報告は途絶えた。しかし彼女の事だから懸命にパソコンと闘っているのに違いなかった。達夫らはその圭子が写ってるカメラの位置を確認するとそこから懸命な聞き込みを開始した。五月にしては蒸し暑くしんなりとした空気がまとわりついて人々で混み合う商店街を駆け回る立川南署の二人と合同の捜査員達の額に、首に汗が流れている。だが圭子に繋がる証言は要として聞く事が出来ない。捜査員は皆胸の内で焦りを感じていた。「あ、東急の先の路地で見つけました。時間は事件の日の十時二十五分です。その辺にはラブホやビジネスホテルも点在してます。曙町一丁目、魚所、魚正の店の向かいの監視カメラです。」きい子の声がインカムを通して響いた。一斉に捜査員が動く。
確かに此処に圭子は来た。時間が経つ程危険性が増す。既に約二日間が経過している。この辺りの宿に入ったと考えるのが妥当だろう。だが時を経た今もその宿に居るとは限らない。だが圭子の身に危険が迫って居るのは間違いの無い事だ。早く見つけなければならない。これまでも幾度となく経験している事だ。だが達夫にとって殺された曜子も追っている圭子も同じ学校に通った言わば仲間だ。その二人にこんな事が起きてる事が信じられない。その気持ちは今でも複雑であった。魚正の近くまで捜査員達が到達した頃「あ、 あの男が先程十五時十三分に立川の駅に降りてます。」末永が「寅吉か!」と叫んだ。「はい五十八に間違い有りません。」捜査員達が浮き足立った。「 これは二人が接触する恐れが有るな。皆心してかかれ!」 インカムを通じて谷口の激が飛ぶ。事は急展開の様相を見せた。
魚正の手前は右に入る路地となっている。この辺りはこのような路地に酒を飲ませる店や安く泊まれる宿などが駅前からの大通りのビルの裏に点在している場所だ。まずはそいうした宿から当たる。
路地の左角に小さなビジネスホテル、ホーストが見えた。原が飛び込んで圭子の顔写真をフロントに見せると急いでチェックアウトして出て行った女らしいとの事だった。「どの位前でしたか!」と聞くと三十分くらい前だと言う。更に「さっきも厳つい男が同じ事を聞いて飛び出して行きましたよ。」と話した。五十八に違いない。其れは圭子にいよいよ危険が及ぶという事だ。達夫が聞いた。「どっちへ行ったか分かりますか!」「二人とも前の通りを左に行きましたけど、その後は見てませんね。」捜査員達は軽く頭を下げてその道を駆け出した。
圭子はどのように関わっているのか今の時点では分からないが、何をするか分からないヤクザの男に追われてる。と、すれば早く見つけなければどのような事態になるのか想像がつく。フロントの従業員が何かを言おうとしたが捜査員達の行動は素早かった。
この道を出れば目の前には電話局のビルが見えてくる。その道をどっちに行ったのかそれは賭けだった。右に曲がれば中央線の線路伝いに出る。そこから駅までの間はちょっとした繁華街になって居て大小様々なビルが並ぶ。逃げてる者の心理として隠れやすいと踏んだ。「 こっちだ!」 達夫が叫んだ。一斉に向かう。その後を他の団体が追っている事などついぞ気づかない事だった。それは四人の厳つい男達である。怪しいと言えば怪しい者達だ。
端から写真を見せ聞き込みを開始した。三軒目位に郵便局もあったが郵便局に入ることは考えづらい。
その隣の大きな中華料理店の入るビルに飛び込んだ。「この人見かけませんでしたか?」と聞かれたレジの女性が果たして覚えていた。「 あ、この人ならさっき店に入らないで階段を上がって行きましたよ。」 五十八の事も聞いてみた。「この方が来たかは覚えてませんね。」という事だ。このビルは五階建てで屋上もある。各く階毎聴き込む時間は無さそうだ。捜査員達は階段に急いだ。これも賭けである。圭子が屋上のどこかに潜んでるのでは無いかと踏んだ。こっちだ!階段を上がるぞ!と達夫が叫ぶと捜査員達が一斉に階段を走り上がって行く。見ると屋上のドアーが開いている。瞬間ピストルを構えた大男が目に飛び込んで来た。五十八!止めろ!もう逃げられん!と末永が叫んだ。左側にこのビルの貯水槽が有るのが目に飛入った。ピストルの先はそこに向いている。圭子はそこに違いなかった。五十八は少し怯んだ。だが何故か引き金を引く様子は見られない。その後ろに回って行った達夫のその目に膝をついて銃を構えている圭子が見える。・ 其れは素人の構え方では無い!瞬間そう思った。・そうか、人の居ないところを選んだのか!・全てを理解した達夫が五十八に飛びついた。後ろ手にしてその手に手錠をかけようとした時「そこ迄だ!」と男達がなだれ込んできた。手に捜査員証が見えた。皆が驚いていると。「その男はこちらが確保する。いいな?」と言った。「あんたらどこの人よ?!」と真岡が叫ぶ。「警視庁捜査三課」だと言う。圭子は銃をしまって五十八に近づくと達夫の手からその手を受け取りワッパをかけた。達夫が「潜入してたんだね?」と圭子に聞くと。「秘密捜査でしたから先輩、すみません報告出来ませんでした。」果たして彼女は仲間だった。しかもキャリア組であったのだ。その時達夫の肩の力が一気に抜けていった。「スマンがこの男はこっちで追っていて折本が潜入捜査してたんだ。殺しの件はこちらから一課に報告をする。」 昭島東署や立川南署の捜査員は動揺を隠せなかった。曜子殺しは所轄に本部を立てて捜査を進めてきた。それをトンビに油揚状態に納得が出来ない。それぞれのメンツがある。だが苦々しいがそれは仕方ない事であると気持ちを収め無ければならない。「折本捜査員に説明を聞きたいのでお借り出来ますか?」と達夫が言うと捜査三課の捜査員達は首を縦に振って了解したようだ。五十八にとっても圭子が警視庁の捜査員で有ったなんて思いもし無かったのだろう。憎らしげにその足元に唾を吐くと引きづられるように連行されて屋上から消えて行った。
とっくに谷口には報告を入れていたから達夫と真岡を残して夫々の捜査員は帰署についた。各々未消化の思いを抱いていた事だろう。
気がつくと黒い雲が空に浮かんでいた。圭子を促して三階に有るコーヒショップに促した。
「いらっしゃいませ。ご注文を伺います。」と男性の店員が聞いた。「あ、ホットで。」と達夫が言うと「 私も。」と真岡と圭子が同時に答えた。店員が去ると「ほんとに済ません。お久しぶりでした先輩。私は警視庁捜査三課の捜査員です。」視線を落としてそう言うと。「うん。」「曜子が殺害されて驚いたろう?」と話を切り出した。「そうなんです。曜子に相談された時考えた上で先輩が昭島東署の刑事である事を技と教えたんです。五年前に私は立川のクラブ花に潜入し始めたんですが。」話に寄るとその時期、仕事を辞めた曜子から何処か良い就職先が無いかと言われたがクラブ花に潜入していた圭子は困り果てていた。
圭子はカウンターの中で客に出す料理や菓子の準備を任されていて、たまにはフロワーで客の接待もしていたがその店に麻薬取引の噂が有る方界組の新田が五十八や構成員を伴って頻繁に来店していた。其れを調べていたのだ。曜子には何処か良い働き口を見つけてあげたかったのだがその時間が取れない。そんなある夜曜子がクラブ花に姿を見せた。圭子は驚いたが知らん顔も出来ない。何事も無く帰って貰いたいのだが圭子の側を離れないのだ。
そんな曜子の容姿が直ぐにママの目に止まって店で働く事を決めてしまったのである。捜査員である事がバレない為にも事を穏便に済ましたい。黙って見ているしか無かった。日を増す事にクラブの女らしく変貌して行く友達に心が痛かった。そして其れから三ヶ月もしないうちにあろう事か新田の手が曜子に伸びてきたのである。最初は連れ出してあちこち旅に出てりホテルにしけこんだリだったのだが二年前に昭島にマンションを宛てがい囲ったのである。彼女はその時点でクラブは辞めた。
曜子の暮らしを心配してもどうしようもない。会う度派手になり横柄な態度になる友達が悲しかった。よりにもよって方界組の組長の愛人となったのである。長い時をかけてクラブに潜入していてやっと麻薬取引が方界組にある事を掴んでいた。
捜査三課が組に手入れしても麻薬は見つからない。思えば気の遠くなる潜入に気持ちも重くなる。それがつい二週間前に曜子から相談を受けた。
新田からコカインを預かってしまって怖いという事だった。勿論圭子はそれを警察に届けて避難する事を説得したがそれを拒んだ。自分を追う影が怖いし、麻薬に関わってしまってタダでは済まないし、きっと罪になるだろう事を承知してたから警察にも行く気はない。圭子は麻薬を何処に隠して有るのか聞いた。友達を信用していたのだろう。「マンションのリビングに置いてある銭の樹の鉢植えの中に隠した。」とあっさり教えてくれたのだ。余り関心を示せば捜査員とばれる。「物騒だわね。気をつけてね。あの世界はどんな手を使うか知れないから。」と注意するしかない。其れにその麻薬を追って他の暴力団の姿も見え隠れしていたのである。
そんな時新田が脳溢血で倒れて身体の自由が効かなくなったのを境にそのコカインの行方を構成員の五十八が独り占めしようと追い始めていた。そしてあの事件の起きる前の日に潜入していた圭子に曜子から電話が入った。「怖い。コカインを預かって欲しいの。もう持って居たくない。」 と言う。だが潜入捜査中仕事を抜ける訳には行かない。仕事の明ける明日の朝早くにマンションに行くと伝えた。そして警察に同行して行こうと考えていた。だが考えが甘かった。仕事を終えたのが朝方。急いで行ったが部屋は荒らされ曜子の無残な姿を目にする事に。捜査三課に報告を入れた。殺害現場は所轄に任せてブツを確保するように指示された。
圭子はその時に少し疑問を覚えた。だが命令には逆らえない。植木の中に果たしてコカインは有った。二キロはあるだろう。五十八はまさかそこにあると迄は気づかなかったのであろう。其れは五十六が逃亡した直後だったと言う。
掘り返した所を気が付かないように整えるとそれを持って玄関から飛び出し命令のまま逃走。実家に戻りそこから一旦浦安に行きそして東京迄とって帰りあのホーストに隠れたのである。その行動の全てが五十六の目を自分に向かわせるものだった。その時には既にコカインは捜査三課が圭子から受け取り押収していた。要するに五十八をおびき出すのにその後圭子は使われたのである。
そこ迄話すと「先輩、私この仕事、使命だと思い務めて来ました。だけど親友も救う事が出来なくて、捜査上の命令でね。私、帰ったら移動願いを出すつもりです。」その頬を涙が伝ってポツリと落ちた。圭子のその心情は手に取る程理解出来た。親友の変わり果てたその姿を見ながらどうしょうもなく捜査員としての命令には逆らえず五十六を誘き出す行動を取らなければ成らなかった。そして働いている自分の部署に誇りが持てないと感じているようだ。それをみて警視庁内部に何かしらある。と達夫も感じた。どんな力だろうとその力が人の命を軽く扱ったという事は間違いない。聡明な圭子ならそう考えるのも理解出来る。「辛い任務だったね。しかしよくやったよ圭ちゃん。」それを聞いて圭子の涙は再度溢れ出した。達夫はその気持ちを切り替える様に「どこに移動したいの?」「所轄。其れも市民に直接触れ合う安心安全課みたいなところ。」「そうかー。其れも良いのかもね。」 と、その時達夫の頭にはあの小山田巡査部長の人懐こい顔が浮かんでいた。圭子の胸に残った後悔の念。其れだけは確かな事だった。良い所に移動出来ると良いなと心から思う。
キビキビして圭子は「先輩、どうせなら先輩の所に行きたいな。ウフっ、では、ご馳走様。」と トッパーの襟を正しながらそう言うと立川駅に向かって消えて行った。あの高校生の時のまんまだ。走って行く圭子の後ろ姿を見送りながら曜子の事は残念だけど圭ちゃんが悪の道に染まって無くて良かったと心から思っている。俺の署か、うんそれは良いかもなんて思いながら真岡がビルの横に付けた車に乗り込んだ。それまで二人の話を黙って聞いていた真岡の口が開いた。
「ビックリしたわねぇー、友達って一体なんなのでしょうかねぇ~。」
友達の意味か。彼のつくづくの言葉だし、其れは達夫も当然同じ思いだった。
複雑な達夫と圭子の思いを残して署に戻ると既に曜子の遺体も母親が引き取ってい、本部も解散して警視庁の捜査一課は警視庁に戻っていた。異例の事件の早期解決だった。
だが捜査員室は憤懣やり方ない空気だ。
それは達夫も同じ事だった。
あの時一旦は容疑者にわっぱをかけようとしたのだから。
「今回は三課に油揚をに持って行かれて腹も立つだろうけどなぁ東堂、真岡。五十八が確保された事で、事件も麻薬の流れもいずれ解明されるだろう。事案が解決するのが一番だと思って我慢してくれ。さっき皆にも話した所なんだが。」谷口が言う。「はい。でも警部。今回は関係者が我々の仲間でした。それが救いです。」谷口はそれを聞くと達夫の肩に手を置いて「あ、君にとっては少しでもホットしたろう。」うなづきながらデスクに戻っていった。「でもあれよ~。」真岡が思い出したように言った。「何ですか?」達夫が聞き返すと「折本捜査員より演技が上手い人一人居ましたよね?」誰だろう?「ほら、小平団地の~。」「娘が警察官でそれを知らない筈無いじゃない。ほんとに食わせ者だわよ、あのお母さん。」そう言えばそうだ。「だが捜査上の機密保持には仕方無かったのだろう。「あ、調べて見ましたよ。」きい子が楽しそうに谷口に目配せしながら言った。「折本さんのお父さんは制服警官を長年務めたのだけど六年前に病気で亡くなってます。渦中のそのお母さんは警視庁の捜査一課で刑事をされて去年退職されてますよ。腕利きの刑事だったそうよ。」 大先輩では無いか!達夫は驚いた。谷口を見ると頭をかいて苦笑いをしている。其れは達夫達がそれと気づく前から知っていたような感じだった。そして、してやられた、二人にはほんとに騙されたと思った。特にあのお母さんは弱々しさも怖がりも演技だったんだ。そうだ何もかも承知の上だったんだ。その気持ちが「うわ、やられた!」とつい言葉になった。捜査員達が一斉に笑いだした。
「一枚も二枚も上手のお母さんだね。」末永も笑っている。その時、頭の上では暗雲が立ち込め今にも雷になりそうな空模様になっていた。五月も半ば、そろそろ梅雨が近い。何処か遠い空からゴロゴロと聞こえて来ている。そう言えば蒸し暑い気もする。「 雨になりそうだし五時もとっくに過ぎてるから僕上がります。」と原が言った。「安月給ですからね本当は定時には上がらないと。」 と、 その時すかさず「 報告書上がって無いぞ。」
と谷口が停した為原は口を窄め、背広をまたテーブルに置いて座った。そして周りに腕時計を見せながらほら5時ですよ、とっくに五時過ぎてますよ。もう六時に近いと同意を求めている。でも周りは真剣には取り合わない。「時代は代わってしまったんだなぁ。」と末永が呟くとその時長洲主任の冷たい一言がその場の空気を一変させた。
「原~。 刑事は給料貰ってるけどサラリーマンの気持ちじゃダメなの!この広い東京、いいえ日本国民を守るんだから。」ピタリと言い放した。皆の笑いが消えた。確かに捜査員は重労働だ。何も無ければ定時に帰る事も出来るが一つ事が起きればいつ家に帰れるのか分からない。そうした血を吐くような捜査が在って事件の解決を見る。そりゃそうだと誰もが思っていた。長洲の言葉は時折皆を黙らせるそんな力が有るようだった。
その日から八日余り過ぎた月曜日の朝、あの五十八が警視庁の留置所で自殺したと所轄の中で噂がたった。確かめるとそれは事実である事が判明した。
五十八が取調べの際に曜子を惨殺したと吐いたその翌日の日曜日の朝の事である。そしてあろう事かあの押収されたコカイン二キロは警視庁の保管庫から消え去ってしまっていた。曜子殺害事件は被疑者死亡のまま送検されたのである。その事は外部には一切聞こえては来なく、自殺した報道もされる事は無い。何かしら大きな黒い影が警視庁を包み込んで居るようだ。そしてその日は本格的に天気が荒れ、土砂降りの雨と共にあちらこちらで雷が鳴り響きそして沢山落ちた。調べようも無いこの事件の続きは確かに警視庁内には残っている。闇へ葬られる事実。だがどうしようも無いと所轄で噂が囁かれているだけである。警視庁の不正に対する捜査権は観察官が行うが其れがきちんと行使されるかは疑わしいのである。
そんな時圭子からの電話が在った。
「移動が決まりました。」明るい声だった。あの事件の後で有る。圭子の気持ちを考えると心配でならなかった。其れは達夫も同じだから気持ちを理解出来たからだ。「 どこへ行くの?」「昭島東署の市民安全課です~。」え、ほんとに此処にか!少し驚いたが嬉しい事に違いない。欠かさず圭子が言った。「 私、亡くなった父や、母に恥じない仕事をして行きたいですもの。」 それは圭子の置かれていた状態を想像させるに十分な言葉であった。「 で、いつから?」と聞くと「 六月一日付です。どうぞ宜しく先輩!」その声が明るかった。
いずれまた怪物が表に晒される日が来るのだろうか。そしてその時も秘密裏に隠し通そうとする組織権力が抑えに出てくるのだろうか。大きな権力の裏で得をしてる者が居るとしたならそれはいずれ白日の元に出てこ無くてはならない。許される事では無いと思った。其れと同時に達夫は所轄の刑事で良かったと心から思う。
そんな悲喜こもごもの気持に追い討ちをかける様に、どうやら今年は早い入梅となったようだった。窓から見える鉛色の空を見ながらうちの奥さんも転勤決まったかな。とそんな事を考えながら報告書を作るためキーボードを叩いた。
「だだいまー。」我が家のドアーを開けるとシンスケが上り口で待っていた。このところやっと達夫が家族である事を認識してくれたようだ。「おーシンスケ出迎えご苦労!」と言うと尻尾をピンと立て達夫の前を案内する様に歩き始めた。短い脚だが結構早い。
リビングに入ると美穂子はキッチンでカレーを作っていた。「あら、お帰りなさい。お疲れ様でした。大変な噂が流れて来たわね。」 流石に内部、話が回るのが早い。「 風呂入れるわ。だけどちょっと聞いて。」と美穂子が言う。「何?」
「決まったのよ移動が。」聞くと北八王子署の鑑識だと言う。鑑識に戻りたいとは分かって居たがほんとに鑑識に空きがあった事が意外だった。「私元々は鑑識官よ。良かったでしょ?今まで三鷹西署でどうしても安全安心課に欠員が有ってね、暫く辛抱してたのよ。」 と嬉しそうに言う。「そうか、鑑識は大変な部所だぞ。少しの判断ミスも許され無いぞ。」「分かってますわ、巡査長さん。」美穂子はおどけて見せた。
北八王子なら此処から近い。仕事は大変だが達夫も少し気持ちが軽くなった。
シトシトと朝から雨が降っている。朝一番で捜査員達に通達が有った。(赴任してくる捜査員の紹介が今朝有るという。) 達夫はあんな残忍な事件が起きたから捜査員の強化をするのかなと漠然と思う。
だが何故今なのだろう。いつもなら新年度が多いのだが。何処も彼処も移動だな。そんな事を考えていた。
皆注目!と南雲副署長が大きな声を出した。達夫は目を疑った。大きなでぶんとした身体の南雲の隣にいるのは紛れもなく圭子では無いか!
「諸君も知っての通り、方界組組長愛人殺害事件で活躍した警視庁捜査三課からこちらに着任した折本圭子巡査長だ。
仲良くやってくれ。」ちょっと待ってくれ、市民安全課では無いのか?
どうしてココなんだ。達夫は面食らっている。ちょこんと頭を下げて圭子が挨拶している。「私は警視庁にいて長い間潜入捜査して来ましたが、やはり刑事でいたくて、なら所轄の刑事と願ってやって参りました。足でまといにならぬ様に頑張りますのでどうぞ宜しくお願いします。」凛とした挨拶だ。もう観念せざるを得ない。
朝から長洲美智子捜査員の姿が見えなかった。
南雲副所長がすかさず話し始めた。
「長洲美智子捜査員は五月末日で退官されました。」どうしてだと座喚く。「結婚退官です。 ご主人になられた方が商社のエリートの方で今回ワシントンに転勤になるそうで長洲君も同行するので残念ですが退官となりました。で、真岡君が巡査部長に昇格、捜査課捜査係長辞令が降りました。」「真岡係長、これからも頑張ってくれたまえ。」 達夫は心から嬉しかった。長洲主任の結婚は勿論目出度い事であるが、真岡は達夫が昭島東署でこの二年間コンビを組んで捜査のノウハウを少なからず教えて貰った男だ。今日からは係長となる。そしてまだ仲間で居られる。素直に嬉しかった。真岡は彼らしく身体をシナシナさせながら頭を掻いて照れている。
叩き上げの末永捜査員は定年まで半年。いずれ近い内にここを去る時が来る。
寂しいが仕方ない事だ。
「谷口君と素晴らしいチームを構築して欲しい。」と南雲副所長は言葉を添えて挨拶とした。
谷口が新たにコンビ分けを発表した。「原は末永さんと組んでしっかりと刑事しての心得を学べ。」
「 折本は東堂と。」
達夫はビックリした。圭子が高校時代の後輩だと谷口は周知の筈だ。其れに年は下だが圭子はキャリア捜査員。なのに何故コンビなんだ?と思う。圭子を見ると軽くお辞儀をしている。上手くやって行かれるだろうか。真岡と小川がコンビを組む。今後の小川にとって其れは良い事だろう。
人事の通達が済んで一係の雰囲気が落ち着くと
達夫はコーヒを入れて自分の気持ちを落ち着かせていた。そこへひとまず長洲のデスクを仮の席にした圭子がやって来た。「先輩、コンビどうぞ宜しくお願いします。」達夫は圭子の顔を見上げた。「 こ、こちらこそ。でもどうして?市民安全課ではなかったの?」
圭子はカラカラ笑って言った。「私はやはり捜査員として貫きたいの。此処を最初から希望したのよ。」「嘘つきめ。」と達夫は腹ただしい顔をして言うと「 ごめんなさい。先輩と一緒に働きたかったの。」 と言った。いつまでもふくれているのは男では無い。「ま、よろしくな。」と達夫から手を出したのである。圭子は嬉しそうだった。
その時谷口のデスクの電話が鳴った。「泉町公園通りで老人が刺された。臨場するぞ!」捜査員達は行動が早い。きい子も「直ぐに詳しい場所を流します。」と叫んだ。達夫も警察車両に急いだ。いつの間に出たのだろう。見ると圭子が運転席に座っている。「 早く乗って!行きますよ先輩。」お、俺が運転するよ!と心で叫んだ。果たして圭子の運転は荒かった。
「圭ちゃん、少しスピード落とせ!」
焦る達夫とは反対に圭子は落ち着いた顔をしてる。そして言った。「いち早く現場に行かなくては、遅れればそれだけ解決が遅くなります。先輩。」「うん、」「これからは全部私が運転しますから覚悟しておいて下さいな。」とハンドルを握りながらカラカラと笑っている。達夫の気が遠くなっていく。大変な人が来てしまった。天を仰ぐ達夫の頭の中に「覚悟して」と言う圭子の言葉が木霊の様に繰り返し聞こえて来た。きっとそれは現場に着くまで消え無いだろう。その忙しく走り回る警察車両が行き交うのを降り続く雨に打たれる紫陽花が静かに見送っていた。

一応完成ですが誠に表現力の無さヒシヒシと感じています。今回は訂正版です。
美亜野

青い鳥

 

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青い鳥が幸せを運んで来ると言うけれど、僕、それは違うと考えてるんだ。

自分の内に幸福が有るんだよって伝えに来てるんだと思うんだよ。胸の中に青々と輝き始めた若葉、回りを見れば花がそっと咲き始めている。でも僅かだし隠れてるし気が付かなくってね、いい事なんてありゃしない、なんて思っちゃうんだよ。

そう思うと尚更、不幸だ、と決めつけちゃうんだ。だから青い鳥は其れを伝えにやって来てると思うんだ。

だったら其れを見つけてみないかい?

自分の中に有る幸せってやつを。

 

知らない人

私がまだ若い頃、子供を保育園に預けてスーパーのレジをしていた。その後本職に戻り暫くした時姑が発病。介護も有って一旦辞してまたスーパーのレジ。お母さんの具合によって出たり入ったり、数えてみればパートをしたスーパーは五箇所。それぞれ地域も違う。だから方々のお客さんと顔見知りになって、外で声をかけられても分からない人がいたりする。未だに覚えてくれていたりするのは嬉しい。だから外で声をかけられたら私は知らない人と思ってもまず挨拶を返す事にしている。今日ホームセンターで声をかけて来た老齢のご婦人は勿論存じてない方でした。椎茸の種の植えてある原木を見て「これ、椎茸よね。私の田舎でこれに水をかけていたのを覚えているの。何で家に水をかけるのかなと思っていたのよ。」と長々お話になる。私はそうですか、そうですかと返すだけ。その時主人が買い物を済ませて来たので失礼したのですが。歩き方を見て「お大事にね。私は目が悪くて。」と声をかけてくれた。私はああ、話したかったんだな、寂しいんだな。と、気がついた。今は一人暮らしのお年寄りが多くて寂しい人が増えている。どう考えても昔のお客様では無かった。でも私と話した事で少し心が弾んだならそれはそれで嬉しい。誰もが声を掛け合っていたあの昭和の頃の光景が懐かしく蘇返って来たのである。🍎

 

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