作文 血縁無縁 ①
🍎今終わりそうな作文を少しづつ紹介していきますね。ミステリーですがトリック解きなものではありません。文も未熟です。良ければ読んで見てくださいね。🍎
美亜野(NOKO)
血縁無縁
美亜野
東堂達夫 32 武蔵野北警察署捜査一課東堂班班長
小高信吉 55 同署捜査一課長
小柄で優しいが捜査に関しては厳しい
最近血圧が高くて悩んでいる。
東堂班員
熊谷 邦彦 44 飲んべであるがスケベでも有る。捜査の手は抜かない。独身
美木多重雄 54 ベテラン刑事だが敢えて平のままである。妻に頭が上がらない。東堂はこの捜査員を頼りにしている。
穂高由美 39 交通課から捜査課に。
空手はこの人の右に出る者はいない。
坂田慎吾 26 今年制服警官から刑事に。真面目だが女に弱い
折本太郎 27 折本圭子の弟、明るいが少し抜けてる。正義感が強く、お酒は弱い。折本圭子は昭島東署で係長に昇任している。
美作あきら 25 春からの新任捜査員。
春からの新任である。生真面目。
保坂賢治 55 武蔵野北署、生活安全課の課長捜査員経験が豊富で人当たりの良い人物
平成7年。今から二十三前の関東平野でやっと桜が咲き始めた三月の末の頃であった。北国の春は遅くまだ寒い。
目を醒ましては居たのだが暖房を朝方落とした寝室は既にシンシンと冷え切っている。時計の針は七時半を指していた。だが日曜日でも有ったので妙子は起きれずにまだベッドの中だった。東京で生まれ育った妙子には北国の寒さは殊更堪える。不精にベット脇の子机の上に置いて有るエアコンのリモコンに手だけを亀のように出して取り其れを点けた。
ふと見ると隣では夫の公男が未だ鼾をかいている。
,,まだ起きそうもないわね、やっぱりも少し寝てよう,,と思ったその時だった。隣の家から大きな音がして子どもの悲痛に泣く声が響いて来たのである。
(あ、また洋子(ようこ)ちゃん、怒られている!)
そう思った妙子は反射的に飛び起きると傍らの綿入れ半纏をパジャマの上に羽織って寝室から一気に階段を降りて玄関を飛び出した。
度々大きな声で泣いているのを聞いていたから虐待では無いのかと普段から危惧していて身体が自然に動いていたのだ。
妙子は嫁ぐまで東京の世田谷で保育士をしてた。その職場で保育していた児童の中にも虐待を疑わざるを得ない子供がいたので普段から気になって仕方なかったのである。
外に飛び出ると途端に冷気が妙子を襲って来た。だが構っては居られない。もしも危惧してたものが当たっていたらと気がせいている。
隣との塀は低く玄関先が見渡せる。その玄関に目を移した時、ドアーが乱暴に空いてまだ三歳の洋子の鳴き声が更に大きく聞こえて来、「出てろ!お前なんか帰って来んな!」と父親の馬声とともに飛ばされるように出され、そのドアーは無情に大きな音を伴い閉まった。
幼い洋子はパジャマ姿で裸足のまま放り出され尻もちをついて激しく泣いている。
妙子はそれを見ると駆け寄った。思わず洋子を抱き締めると自分の半纏を脱ぎ洋子に着せた。不思議に寒さを感じない。
「大丈夫よ。泣かないで。おばちゃん、パパに謝って上げるから。」
洋子は妙子にしっかりとしがみついで泣くのを止めない。
以前敷地の境界線の事で少し注意をした。その時その男は自分の方が違法な事をしているのに逆ギレし、すごい形相で其れは理不尽な、実に聞くに耐えない言葉で怒鳴られた事が有った。その時は社宅で有ったから会社の人事が対応して問題は解決を見たのだったのだが。そんな事があったから震える指を落ち着かせて恐る恐るチャイムを押した。
いきなりドアーが空いてその父親が妙子に血走った眼を剥いている。妙に興奮しているように見える。
身体が小刻みに震えて止まらない。「なんだ!人のうちの子を!」と案の定怒鳴った。
だが、妙子は気丈な女だったから負けてはいない。それでも身体は正直に震えて止まらない。
「なんだと聞きたいのは私の方です。一体どうしたのですか?」と精一杯言い返した。
「躾だよ!ほっといてくれ!」
見るとそう叫んでる後ろで母親が何も出来ずにオロオロしているのが見えた。
「ほっとけませんよ。まだこんなに小さな子を寒いのにほおり出すなんて。」奥から産まれたばかりの赤ん坊の鳴き声がしている。洋子ちゃんに妹か弟が居るのだろうか?ん、?と思ったが我に返り「躾じゃないでしょ!ご主人の怒り収まるまで洋子ちゃんうちで預かりますから、良いですね!」と言い返した。その勢いが意外だったのか
「か、勝手にしろ!どうせそんなやつ要りゃしない!」と妙子に目を剥き怒鳴った。
その酷い言葉は妙子と泣きじゃくる洋子を殊更凍りつかせた。
妙子は洋子を護るようにして抱くと急いで戻ろうとした。
「全く物好きな女だよ!シャシャり出て来やがって!覚えてろ。」と罵声を浴びせると乱暴にドアーを閉め、それを蹴る音がして中から鍵をかける音がことの他高い音で聞こえた。
正直妙子の身体はまだ怖さに震えている。(あの男はまともでは無い!)胸の内でそう叫んだ。
急いで洋子を抱えた妙子は家に入った。リビングのエアコンとガスストーブをつけると居間のソファーに洋子と共に座った。じんわりとガスストーブの暖かい空気が二人を包み始めて行く。漸く少し気持ちが落ち着いて来た。その時、公男が起きてリビングに降りて来て二人に視線を向けた。外での声が聞こえていた様だ。
「大丈夫か、お前そんな事して来て。」
「大丈夫も何も無いの。見て!」「洋子ちゃんの身体アザだらけよ。」少し開けた襟の下の肌はまだ赤い色をしていて痛々しい。
公男もパジャマの袖をたくしあげて洋子の腕を見て驚き息を呑んだ。
「こ、これはほっといたらこの子大変な事になるな。」
「顔は殴らないのよ、知能犯だわ!」妙子は呻くように言った。
「一応警察に電話しておこう。」
妙子は其れにうなづきながら洋子を抱きしめた。
胸が苦しいほど可哀想で堪らない。幼い子供は親から乱暴をされても親を変だとも嫌いとも思えない、自分が悪いから怒られると恐怖を抱きながらも我慢をしてしまう。それどころかどかで親を愛おしく思っている事が有り、他人から親の事を悪く言われたりするとその人に逆らったりして抵抗したりもするのだ。その子にとって親は紛れも無くそのふた親しか居ないのだ。どんな親でも心の奥で子は親を求めている。其れは見ていていじらしいくらいであった。洋子もそうなのであろうか。
子は親の私有物と考える親が多い。だが、子供であってもちゃんと人格を持った人なのである。まして自分の子なら目の中に入れても痛くないほど可愛いもの、何とか幸せにさせたいの願うのが普通であるが不幸にも自分の腹いせに食べさせない、叩く、蹴る、そして挙句の果てに育児放棄に至りせっかく生まれたその短い命を絶たれてしまうケースが後を絶たないのが現実なのである。洋子にとって義理の父であったからあの男には洋子は所有物そのものなのであろう。母親が我が子を護れない事に腹ただしい。しかし現実としては何としても助けなければならない、妙子は洋子を抱きしめながらそう思っていた。「おばちゃん、苦しい。」と言われて我に返り腕を緩めて洋子の顔を改めて見ると、涙とそれを手で拭いたものだからほっぺたが汚れている
「顔綺麗にしてご飯食べようか。美味しいの作るよ。」と話しかけた。洋子は泣きながら「うん、食べゆ。」と回らない口で言った。まだ時折しゃくりあげて泣いてるので、大きな妙子の半纏が上下にその度動く。だから急いで自分の暖かなベストを持って来ると半纏と替え洋子に着せた。部屋は暖かくなっていたしダブダブではあってもそれで手が自由になった。暫く着せられたベストを洋子は眺めて嬉しそうで有る。
その小さな顔をお湯で絞ったタオルで拭くと幼児らしくとても可愛いらしくなった。目の前にまだ三歳のあどけない痩せた幼子が居る。こんなに可愛い子供なのに、妙子の頭にあの男と何も出来ずにオロオロしていた母親の姿と奥から聞こえた赤ん坊の声がまた浮かんでは消えたりしている。
さて、若い夫婦には三歳の子供が何を食べるのか良く分からない。
「洋子ちゃん、何が食べたい?」と聞いてみた。
洋子は円な瞳を向けながら
「うーんとね。ご飯。」「ご飯?」「お塩のご飯。」「え、ご飯、塩?」「...。」
妙子は涙が止まら無くなった。,,こんな小さな子がご飯しか知らないなんて,,
胸が詰まって声を殺すのに大変だ。「それとご褒美のバター。」
とまた言ったから尚更やるせなくなって妙子は頭を撫でてやるとそそくさと着替えに立って行った。
オムレツも温かな味噌汁も何にも食べさせて貰って無いのは確かな事だ。
塩のかかったご飯だけ食べてたのか。ご褒美でバターか!だからこの子痩せてるのか!
妙子は忌々しかった。だから包丁の音が否応無しに大きくなる。公男はそれに驚きながら洋子と妙子を交互に見ていた。
そのオムレツとサラダと味噌汁を作った。
リビングのテーブルに三人で着くと椅子の上に母さん座りをして洋子は其れをじっと眺めている。
おもむろにスプーンを取りオムレツを一口運んだ洋子は真っ直ぐに妙子をじっと見つめている。
その小さな瞳からみるみるうちに涙が溢れ出しポロポロと頬を伝わり落ちていく。
堪らなくなって妙子は吐き出すように公男に言った。
「もう、この子を返したくないわ!」
その気持ちは一緒だがやはり男である。公男は冷静だ。
「でも人の子だよ。そんな事簡単には出来ないよ。それにあの男は何をしてくるのか知れやしない。やはり警察に相談してみるのが一番じゃないかな。」
妙子はその言葉にそりゃそうだと思い当たりやっと自分の気持ちを納得させるしかない。
その間も洋子は夢中で妙子の作った物を食べている。
「おいちい。」と一言ポツリと言った。その洋子の余りの可愛さに公男と妙子の顔が緩んでいた。
その日の午後妙子が買い揃えた服に着替えさせた。だが防寒服まで買えなかったのでまた妙子の半纏を着せその洋子と山形南酒田警察署の生活安全課を訪ねたのである。
滝沢公男 28 東京の五反田に本社が有るIT関連会社、【SSIT】から山形営業所に転勤。優しい男で2年前その転勤とともに妙子と結婚した。
滝沢 妙子 26 公男と同じ部署に居たが婚姻と同時に退社し山形についてきた。正義感が強く愛情深い性格である。
木村洋子 (ようこ)3 歳母、織江が洋子を連れて哲郎と再婚した。伸ばし放題にした髪の毛、ほっぺが赤く可愛い子供だ。
木村哲郎 31 織江と再婚したが横暴な性格で織江と幼い洋子に日常的に暴力を働いている。
山形北警察署は東京の所轄署よりもこじんまりとしている。
その生活安全課は二階のフロワーに在って捜査一係や二係と仕切りで区切られている。その一番手前の仕切りであった。
「それは偉いことだったねぇー。洋子ちゃんって言うの?あのお姉ちゃんと遊んでてね。」
と人の良さそうな巡査部長高峯郁夫が洋子に声を掛けて促した。
頭は禿上がり丸いメガネを掛けてニコニコと洋子を見つめていた。
婦人捜査員が洋子を別の仕切りに連れて行くと高峯は応接室のソファーに二人を促した。
「あの木村って男はね。横浜から流れて来た男でね。悪い噂も聞いてますよ。あ、洋子ちゃんの事で何回か此処にも通報が来てましてね。」
といいながらノートをめくると
「つい二週間前にも虐待されてるのでは無いかと電話が有りましてね。児童相談所とも連携取ろうとしてたとところなんです。」
妙子は思った。…2週間の間動いてないのか…なんて事だ。
「あの、陽子ちゃんの身体、至る所に乱暴された後が有って、あのお父さんの所に返すのは危険だと思うのですが。」
妙子は高峯に必死に話した。
公男は黙って聞いている。
「その辺は今うちの捜査員が洋子ちゃんを調べて居る筈です。何にしても人様の子どもさんですから余程のことがない限り保護は難しくてこんな機会でもないと何も出来なくて、情けない事何ですが、
でも滝沢さんがこの子を保護して連れて相談に来られたおかげでね今回は相談所に一時預かって貰い親子さんと話し合う事が出来るでしょう。」と何とも頼り無い言い方をした。
「じゃぁ今日は洋子ちゃん家に帰らないで済むんですか?」「と妙子はつめよる。「親御さんに通達してからですが懸念が有れば親子さんには引渡しません。」署から木村へ電話を入れた。
「あの女警察へ行ったのか!構わない何日でも預かってくれ!だけど洋子はうちの娘だ、いずれ返して貰いに行くぞ!」と電話口で凄い剣幕で怒鳴っていたらしい。
妙子も公男も後追いして泣きじゃくる洋子に後ろ髪を引かれる思いになったが今日のところは納得せざるを得なかった。
何か有ったら洋子を何時でも引き取る旨を告げ、今回の相談の要望書を提出して高峯の手に洋子を委ね帰りの車に乗り込んだ。
ひとまず親の元には戻らない。それだけが少しだけ安心出来た事だ。しかし胸の内では警察や行政の対応が歯がゆくてならない。何だあの頼りない受け答えは!と妙子の気持ちは複雑であった。
ようやく家のそば迄帰ってきたのは午後の二時を回った頃だ。
木村の家の周りが騒然としている。警察署の鑑識だろう。ジュラルミンの大きな箱を持った捜査員が何人かその玄関に入って行くのが見えた。町内会の役員の近藤一夫や近所の人々が停止線のテープの外を取り巻き心配そうに成り行きを見ている。
公男は妙子を下ろすと車を自宅の駐車場場に入れ急いで現場に向かった。
妙子は近藤老人に「何かあったんですか?」と聞いてみた。近藤はこの辺りの隣組の役員だ。「いや回覧板をもって木村さん家に来たらドアーが開いてて奥さんが玄関で倒れてて、」「声をかけても返事が無くて、驚いちまってね、110番したんだよ。」と興奮している。その時には公夫も妙子の側に来ていた。🍎
所轄の捜査員も県警の捜査員も到着しどんどんと家の中に入って行った。
近藤は捜査員に促されて発見時の事情をパトカーの中でされている。
公夫の隣に向かいの家の奥さんがいる。「洋子ちゃんが居なくて良かったわ。」と言った。
履物も吐かずに衣服も乱れ倒れていた織絵は既に事切れていた。どうした事なのか詳しい見聞を待たなければ事故が他殺か判断はつかない。
確かな事はどこを探しても家の中に哲郎の姿は無かったのである。ただ奥の部屋から赤ん坊が置き去りにされて居て警察員に保護されたらしい。
織絵は玄関で何者かと争い突き飛ばされて上がり口に頭を強打、頭蓋骨陥没が死因で有る事が判明して他殺と認定された。
警察は即夫の木村哲郎を第一容疑者として行方を追った。
洋子の事も有ったのでいつ哲郎が殴り込みにくるかも知れないと滝沢夫婦は気が気でない何日かを過ごした。
まだ哲郎は逃げて捕まらずいた。
織江も居ない今、洋子は行政の保護の元にいる。其れだけが救いであった。
少しの後その社宅から滝沢夫婦は小さな子供と赤ん坊を連れ何処と無く去って行った。